騙りのキャロル

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騙りのキャロル

 犬派か猫派か。  そう問われた時、僕は迷わず猫派と答える。理由はいくつかあるが、人に媚びを売らない飄々としたところを大変好ましく思うからだ。  誰かに命令されることはない。自分の主は自分自身。己が正しいことを、どんな逆風にも負けずに突き進む一匹狼。――狼、というのに変かもしれないが、僕は犬より猫の方がずっとその言葉が相応しいと思っているのである。  多分それは、父の教えの影響もあるだろう。  父はとある“エライ仕事”をしている。国を動かす大事な仕事だ。どのような政策を行っても、全ての国民を救うことはできない。すべての国民が納得するような政治はできない――ゆえに。必ず反発する人は現れるし、その反発する人が“声が大きい人”だった場合、自分を潰そうと津波のように襲い掛かってくることもある。  それでも、本当に己が正しいと思ったのならその津波に負けてはいけない。  どんな荒波も逆風もはねつけて、雄々しく前へ前へと突き進む人間でなければいけない。――それが僕が尊敬する父の教えだった。 ――犬は、可愛くないわけじゃないけど……人間になつきすぎるのが嫌だ。自分をちゃんと持ってない気がする。そう思ってたんだけど。  そんな猫派の僕が今、とある段ボール箱の前で固まっている。ランドセルの紐を掴んで、ぽかん、とそれを見つめている。  だってそうだろう。学校の帰り、家の真正面の道。まさに、僕の家に見つけてくださいと言わんばかりの位置に、段ボールに入った子犬が捨てられていたとあっては。  段ボールにはご丁寧に“拾ってください”の文字。  入っているのは明るい茶色の、ふわふわの子犬だ。黒っぽい目で、僕のことを悲し気に見つめている。 「た」  僕は慌てて、自宅のチャイムに飛びついた。 「たたたた、大変!わ、わんこが捨てられてる!」  ああ、メイドが飛んでくるまでの時間が、あまりにももどかしい!
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