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「犬猫というのは、ちょっとした色とか、耳やシッポのカタチ、模様の出方などで価値が大きく変わってしまうこともあるようです。例えば、特定の耳の形をしていないと欠陥とみなされ、売り物にならないと言われることもあるとか」
「なにそれ!酷い!」
「まったくです。わたくしたちからすると何の問題もないように見えますが、ひょっとしたらブリーダーの方々などからみれば、何か致命的な問題でもあったのかもしれませんね。だから売り物にならない、と捨てられてしまったのかも。もしくは単純に、どこかの家で子犬がうっかり産まれてしまって育てられなくなった可能性もありますが」
どっちにしたって、納得できる話ではない。
「わう?」
子犬は水を飲み終わると、なあに?というように僕を見上げた。口元が水でびしゃびしゃになってしまっている。僕はティッシュで丁寧に拭いてやると、そっとその体を抱きあげた。段ボールがなければ、辛うじて僕でもだっこができる。
「こんなに可愛いのにな、お前」
今でも、猫の方がという気持ちはどこかにある。でも、この子は別だ。
「決めた。お前の名前はキャロルだ!もうすぐクリスマスだし、丁度いいだろ!……よろしくなキャロル。うちの子になろうな!」
幸いと言うべきか。
あるいは、よっぽどキャロルが可愛くてノックアウトされたからなのか。
帰ってきた両親は僕がキャロルを見せると、目をまんまるにして少し戸惑ったあと――すぐにOKを出してくれたのだった。命を捨てるなんてあまりにも卑劣だ、我が家の前だったのはきっとうちに来る運命だったのだ、と。犬なんて大嫌いだと豪語していたはずの父が、あっという間にキャロルの虜になっているのがなんだかおかしい。
今や、父が完全にキャロルを独占してしまっているせいで、ちっとも僕や母がだっこさせてもらえない状態である。どれだけ魅了されたのだろうか。
「わたしが家を出た時には、この子の段ボールはまだなかった。賢一郎が学校に行く時もそうだったのだろう?」
「うん、お母様がお出かけされる時にも、段ボールはなかったって」
「ということは本当に、お前が帰宅する直前に捨てていったのかもしれん。本当に不届き者だ、こんな可愛い子を捨てるだなんて!」
「それは激しく同意するんだけどお父様、いい加減キャロル返して。僕も抱っこしたい」
「あと五分……」
「長いよ!」
犬なんて!とワンコ番組を見るたびに言っていたくせに、とんでもない掌の返しようである。顔をすりすりしすぎて嫌だったのか、ついにキャロルから顔面に犬パンチを食らっていた。鼻を思い切りはたかれて悶絶する父から逃げて来たキャロルを救出する僕。
明日、獣医師に連れていこう。何も病気が見つからなければいいのだが。
いや、病気が見つかったところで、きちんと治療や看病をするだけのことではあるのだが。
――今日は、いい日だなあ。
これからは、キャロルと一緒に過ごす日々が待っている。
そう思うと、わくわくが止まらない。とりあえず、急いでケージだけは買ってもらったので、今夜はそこで眠ってもらうことにしようと思う。本音は布団で一緒に寝たいけれど、子犬の教育上それは良くなさそうだから。
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