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「あのね。クラゲって、漢字で海の月って書くんだよ」
パパが教えてくれたの。ぽん、ぽんと背中に触れながら続けた。
「夜は海も真っ暗で。光って浮かぶクラゲが、夜空のお月様みたいでしょ」
ぽん、ぽん。
「あのね、クラゲのクララはね」
もぞりと小さなおでこが見上げてきた。
「クララ?クラゲだから?」
「そう」
「ふうん」
「クラトくんが大好きで」
「クラトくんも、クラゲだから?」
「そう」
クラ太郎、よりいいと思ったんだけど。なんか眉寄せられてるな、イマイチだった?まぁいいか、即興話を続けよう。
「でもクラトくんは、ずっと憧れてる、クラリ子さんがいて」
「クラゲのクラリ子さん?」
「そう、だね」
ごめんね、ネーミングセンスなくて。クラ子さんはないわと思ったんだけど、だからってクラリ子さんじゃクラリネットみたい・・・いやまあ、気を取り直して。
「すっごい美人――美クラゲさんなの。クラリ子さんが、夜の海を泳ぐ姿は。丸く白く透き通る体が、ふわっと広がって、そっと縮んで。夜空に星座が、真っ白のドレスをきらめかせるみたいで。すいすい、お月様のスポットライトを浴びて踊る、お姫様の優雅なダンスそのもので」
みんな見惚れちゃうんだよ。
「でもね、クララは泳ぐの苦手だったの。体をふわっとふくらませたら、ひらひらしたままうまく戻らなくて、焦ってる間に、上に進むはずが、右に曲がっちゃったり、タイミングが合わないの。クラリ子さんみたいに、すいすい泳げるように、一人で一生懸命練習してたらさ、夢中になりすぎて、気が付いたらみんなとはぐれちゃって」
「クララ、迷子?」
「そう。暗い海の中で、どっち行ったらいいかわからなくて。どうしようって涙が出そうで。そしたら、クラトくんが迎えに来てくれたんだよ」
「よかった!」
「クララにはさ。暗闇の中に、ぽわっと現れたクラトくんが、本物のお月様に見えたの。夜を背景に一つだけ輝く光。空を見上げれば、必ずそこにいてくれる。ママや真衣が、お部屋にいても、お外に出かけても、お月様、どこからでも見られるじゃない?クラトくんがいてくれるって、安心させてくれたから。クララは練習頑張れて。だからね。クラリ子さんがいるのはわかってたけど、クララはクラトくんに告白したの。
夜空に浮かぶ月まで泳げたら。わたしと付き合ってください」
「はい!」
両手を上げて、満面の笑みで返事をしてくれる。すっかりクラトくんの気分らしい。私の頬も自然とほころんで、細くて柔らかい髪の毛を撫でた。
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