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「真衣も、大切な人にはちゃんと、気持ちを伝えようね」
「うん」
「明日は、えりちゃんに、ごめんなさいしようね」
「うん」
手をつないでベッドまで行き、寝入ってからリビングに戻る。部屋に満ちた白い空気に導かれるように、ガラス戸を開けてベランダに降りた。
見上げると、やっぱり大きくて丸い。手すりに乗り出してふり仰ぐ。
「友くん」
初めてのデートは水族館。きらきらふわふわ、幻想的に水槽を漂うクラゲの前で、海月って書くんだよ、と教えてくれた。
憧れの人がいたのは知っていた。
私たちは洋食屋さんで一緒にバイトしていて。ご案内、オーダー、テーブルセッティング、忙しくてテンパりそうになったときにいつもフォローしてくれる。寄り添うように照らす月の光と同じさりげなさで。告白したら。忘れられない人がいると断られた。
「なんで。見つけちゃったんだろうな」
〝見てくださいよコレ!〟
職場で後輩に突き付けられたスマホ画面。うらやましくなる長いまつ毛に縁どられた大きな瞳の美女が、見た者すべてを魅了してやまない微笑を浮かべていた。
〝イトコの友達の先輩のお姉さんで、すっごいでしょほら、フォロワーこんなに〟
ん?スクロールされていくアイコンの一つに見覚えがあった。ごめん、ちょっと見せて。手にして眺めて首を傾げる。なんでこんなところに、コメントしてるの。なんで、こんな。一日中疑問がぐるぐる頭を駆け巡った。
帰宅後、再び美女のSNSを開く。さらに眺めて見つけた、彼の同級生のアイコンにメッセージを送って聞いて心臓が止まった。
彼女は彼のクラリ子さん。
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