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月の光がちょうどいい。
ベランダから、ガラス戸越しにリビングいっぱいに降りそそぐ。空を見るまでもなくわかる。きっと今夜も丸くて大きい。その明かりで十分だから、電灯はつけずに、膝の上に広げたTシャツの袖を折りたたむ。
「ママ」
か細い声に、洗濯物の山に伸ばした手を止めた。パジャマ姿の娘が、ソファの傍らでうなだれている。さっき、寝かしつけたばかりなのに。
「どしたの。眠れない?」
体をずらして隣に座らせた。月明りの下では、薄桃色のパジャマも小さな手足も白みを帯びる。
「えりちゃん、口きいてくれない」
「そうなの?何かあった?」
月と夜の作用でことさら青白い頬をのぞき込む。
「えりちゃんが。かわいいけしゴム、もってたから」
「うん」
「ちょっと、かりたら。かえして、ってすごくおこって」
「うん」
手のひらですっぽり包み込める肩を抱き寄せた。
「ちゃんと、貸してってお願いした?」
一つ、二つ、左右に首が揺れた。
「えりちゃん、びっくりしたんじゃない?ごめんなさい、言った?」
再び揺れた頭がすり寄せられる。
「だって、口きいてくれない」
「真衣、えりちゃん大好きでしょ?お友達でいたいよね」
「でも。あしたも、口きいてくれなかったら」
どうしよう――かすかな語尾は、白く透き通る部屋の中に溶けた。
月光の控えめな白色は照らしたものにはかなさをまとわせる。パジャマの背中を確かなものにしたくて、二度三度と撫でさする。
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