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それから夕飯まで二人はメイクボックスで遊び、時間になったのでフランシュリがいる台所へと向かった。
フランシュリは化粧したルナティーを見て驚いていたが、先にお風呂が沸いたので、そちらから済ませてほしいと動揺しながらも頼んだ。
ヒロエとルナティーは、彼女の言う通りに浴室へと向かうことにする。
「夜ごはんはなんだろうね。フランシュリさんの作るものはどれも美味しいから、お泊まりするって決まってからずっと楽しみにしてたよ」
「だったら毎日食べにくればいいじゃないの」
「それはとっても嬉しいお誘いなんだけど。さすがに毎日はパパとママに怒られちゃうかな」
二人は他愛のない会話をしながら浴室へと入り、体を洗ってから湯船に浸かって早々に風呂を出た。
ルナティーの屋敷の風呂は高級ホテルの大浴場を思わせるほど豪華な造りになっている。
だが、まだ子供であるヒロエにはその良さがあまりわからず、ただ大きな風呂だと思ったくらいだった。
大人ならば歓喜の声を上げ、数時間は浸かってしまうくらい居心地が良いところなのだが、彼女は小学生で長風呂をするようなタイプではなかったのも大きい(もちろんルナティーもだ)。
風呂から上がって用意された部屋着に着替えたヒロエとルナティーは、再び客間へと行き、フランシュリの作った料理を楽しんだ。
串焼き肉や、肉を詰めた小麦粉のゆで団子。
他にはラム肉、ニンジン、ライス、タマネギを使ったピラフや、ジャガイモとトマトのマトンスープなど、おそらくはルナティーやフランシュリの郷土料理だろう品を口にし、ヒロエはお腹がパンパンになるまでそれらを食べた。
「デザートにはメロンがありますよ。でも、ヒロエさまはもう食べれそうにありませんね」
幸せそうに呻いているヒロエを見て、フランシュリがそう言った。
しかし、ヒロエはメロンと聞いて目を輝かせてガバッと前のめりになって返事をする。
「メロン!? メロンなんですか、フランシュリさん!? やった! それならぜんぜん食べれるよ!」
「いや、あんた……。そんな無理して食べたらお腹こわすわよ」
「ルナティーちゃんは知らないの? 日本人の女の子のお腹はね。ちゃんとした料理とデザート用とでわかれてるんだよ」
「知ってるわよ。つまり別腹って言いたのね……」
食後のデザートを楽しみながら、フランシュリも一緒にお喋りしているうちに夜は更けていった。
ヒロエとルナティーはそろそろ眠ろうと、彼女の部屋へと向かうことにする。
そして部屋へと入ってパジャマに着替え、ルナティーがいつも使っている大きなベットに二人で入った。
フランシュリは彼女たちが床についたことを確認すると、部屋を出ていく。
「ルナティーさま、言い忘れていましたが、今夜はあの者たちが――」
「うん。満月の夜だって言ってたもんね。覚えるてるから安心して」
去り際に何かを伝えようとしたフランシュリに、ルナティーはわかっていると答えた。
ヒロエは二人が何を話しているのかはわからなかったが、自分には関係ないと思って気にしなかった。
フランシュリが部屋を出る前に灯りを消し、部屋が暗くなる。
「さっきのフランシュリさんが言ってたことってなんなの?」
「ああ、ヒロエは気にしないでいいわよ。別に大したことじゃないから」
「だよね。ちょっと訊いてみただけ」
ベットに入っていたヒロエとルナティーは、それから少し話をして眠りに入った。
だがヒロエはすぐに起きてしまい、おまけにトイレに行きたくなっていた。
デザートのメロンを食べ過ぎたせいなのか。
彼女は面倒だけどと部屋から出て、トイレへと向かった。
屋敷内はもちろん暗くなっていた。
もう慣れたと思っていた廊下も窓から入る月明りだけでは別の世界みたいだと、ヒロエは少し怖がりながら歩を進めた。
「あれは……フランシュリさん? こんな時間にどうしたんだろう?」
それから無事にトイレを済ませたヒロエだったが、部屋に戻ろうとしたところ、窓から外にいるフランシュリの姿を見つけた。
こんな夜に何をしているのか気になった彼女は、廊下から屋敷の外へと出た。
ヒロエはフランシュリが見えた屋敷の庭にたどり着いたが、そこには誰もいなかった。
どこへ行ったのだろうと、彼女はふと空を見上げる。
「わぁ……キレイなお月さま……」
夜空には、まるでヒロエのことを見下ろすかのような大きな満月があった。
その美しさに目を奪われていると、ヒロエはルナティーの言葉を思い出す。
「うん。満月の夜だって言ってたもんね。覚えるてるから安心して」
ルナティーの口にしていたことを思い出したヒロエは、それがフランシュリが外にいたことと関係があると思った。
もう少し探してみようかなと、彼女が庭を見渡していると、高い囲いから誰かが入ってくるのが見えた。
それは、ゆっくりとヒロエに近づいて来る。
まさかフランシュリかともヒロエは思ったが、わざわざそんなことはしないだろうと考えると、急に怖くなった。
こんな夜に人の家に入って来るなんて泥棒に決まっている。
急いでルナティーかフランシュリに伝えねばと、ヒロエは慌てて走り出した。
とりあえず居場所がわかるルナティーから声をかけようと、屋敷の扉へと手をかけたが――。
「おい、お前、ここでなにしてんだよ?」
「キャーッ!」
いつの間にか背後に迫っていた、泥棒だと思われる侵入者に声をかけられた。
その人物を一目見て慌てて庭のほうへと引き返すヒロエ。
彼女は怖くて仕方がなかった。
それはもちろん泥棒だと思っていることもあったが、その人物はなんと半狼半人のオオカミのような姿をしていたからだ。
見たのは一瞬だったが、とても仮装やコスプレとは思えないむき出しの歯に獣の耳があり、真っ赤な毛と金色の瞳をしたオオカミ男――いや、オオカミ女だった。
どうして化け物が人の家に入ってくるのだと、ヒロエは恐怖と混乱で頭が働かなかった。
だが一刻も早く逃げねばと、いつも以上に足が動いていた。
自分が知らせねばルナティーもフランシュリもあの化け物に殺されてしまうと、ヒロエは使命感からひた走る。
そして庭を全力で駆けて、目に入った物置小屋の中へと隠れた。
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