奇妙な電話

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「ええと、今どこにいるか、分かりますか?」 「左手に大山がある、さっきまで蒜山高原にもいた」 「では米子道ですね。岡山まで続きます。高速道はいつでも出口が出て来ますので、いつでも下りれますよ」 「下りている場合じゃない。止まったら追いつかれてしまう。奴らから逃げ切れる道を教えてくれ」 「そうは言われても、米子道はまっすぐ続いていますので。そのまま乗っていたら、中国道へ続きます」 「何てことだ。俺は商用で鳥取に来ただけだったのに。仕事でこちらに来て、せっかくだから出雲大社を見ていこうかと思って観光して。この年になっても、独身で母にも結婚を言われているから、結婚相手が見つかるようにとお参りして来たんだよ、バカだろ。男のくせに」 「い、いえ。そのような」 「俺は後藤田俊憲、二十八歳、横浜大学卒、情報学部、データサーバーの会社キバリエの社長をやってる。昨今流行のベンチャー企業」 「私は松本夏乃。二十五歳。派遣社員でコールセンターで働いています」  私もこの場にいたら言わねばならないかなと思って、言ってしまった。 「昨日はクライアントとの打合せに、城崎温泉あたりまで行ったんだ。明日は、俺は東京に帰らねば。他のクライアントの打ち合わせがある。しかし、本社は静岡にある。俺は浜松生まれなんだ」  焦ってしゃべり続けているけど、なんだか悪い人そうじゃない。誠実そう。    でも、私は滋賀県生まれで、ここは大津のコールセンターです。までは言えなかった。おしゃべりは禁止されている。 「追いかけられてるんだ、教えてくれ。逃げられるところなら何だっていい」 「米子道はそのままずっとまっすぐつながってますので、東京まで行けますよ」  コールセンターには、救急依頼、これが間違ってかかってくるのが厄介だ。  けど、コールセンターとして大々的に広報されているし、パーキングエリアにも堂々と広告が張ってある。事件なら警察、道路問題なら緊急ダイヤルへなど誰もすっ飛ばして、こちらにかかってくる事が多い。  緊急かな?電話の切り替えをするボタンを押すか。
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