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心なしか、ウウウンという奇妙な電気自動車の音が聞こえたような気がした。
「社長、今日の午後から会議です。東部建設の社長も来ますので」
「ああ、分かった。その前には戻っておく」
ビルの下の駐車場の出口から、短い髪を社長らしく七三に整え、灰色の背広、青いネクタイで、実業家っぽい男が現れた。
「後藤田さん?」
「もしかして・・・松本夏乃さん?」
その声は、確かに電話の声だった。
「良かった。生きていた。助かった。良かったあ」
半笑い、半泣き。どう今の現実を受け入れていいのか分からなくて、捨てられたノラ猫みたいに周りをぐるぐる回った。喜びが大きすぎて、私ももう訳が分からない。
「本当かどうか信じられなかったけど、今、君と出会って、本当だと分かった。ありがとう」
彼も感動を讃えた表情で、子犬のように無垢な瞳でうるうるとしている。
「君の忠告を聞いて、高速道路を降りた。高速道路は降りられないから、路肩に停車したんだよ。すぐ通報されて、高速道路パトロールが飛んで来た。警察にも通報してあったけど、移動しているから、なかなか来なくて。その間、山の斜面をよじ登って、半グレヤクザが行き過ぎるのを待ったんだ」
気づけば、彼は私の手を取って、見つめている。
なんか、思ってたより素敵な人。私は胸がどきどき・・・
「もし、君、今日、暇なら、お茶でもどう?」
「え?」
「いやあ、不思議な縁でつながったわけだから、もう少し君のことを知りたいと思ってね」
出雲大社のお参りの後での、異世界との通信。
それはもしかしたら、縁結びの神様の仕掛けだったかもしれない。
(了)
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