アタシのママ

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「は?」 しかし、彼女は何事も無かったかの様に其処いた。 「おはようございます。クリスティーヌさん」 昨日あんな事までされて尚、まだ居座れるの……? アタシは思わず口を開いた。 「アンタ、なんで居るの……?」「クリスティーヌさん?」「昨日、あんな事されたのに何平気な顔して居座ってるのよ!!頭可笑しいんじゃないの!?」 怒鳴るアタシに彼女は何も言わずに黙って聞いていた。 アタシはお構い無しに彼女へ怒りをぶつける。 「今までだってそう!わざと転ばせたり、物を落として怪我させようとしたのに……なんでそんな平気な顔していられるのよ!?早く出て行きなさいよ!目障りなのよ!!」 彼女に思いの丈をぶつけると、彼女は静かに口を開く。 「クリスティーヌさん。前にも言いましたよね?」「はぁ!?」「私は貴女の母親だって……」 彼女はそう言って、アタシに近づき手を挙げた。 次の瞬間、パンッと乾いた音が響き渡り、アタシの頬が弾かれる。 「いった……なに、すんのよぉ!!」 彼女に掴みかかろうとした途端、彼女の手がアタシの背中に回された。 ギュッとアタシを抱き締める彼女は、静かにそれでいてはっきりと告げる。 「だから私は貴女を叱り、貴女を愛します」「何言って……」「寂しかったら弱音を吐いてもいいです。辛かったら当たり散らしても構わないから……」「アタシは……」「貴女にはもう、辛い想いをさせません」「ッ……」「だから、クリスティーヌ」 『貴女を置いては行きません』と、彼女は初めて笑って見せた。 「クリスティーヌ」 アタシはママの事を思い出す。 「ねぇ、お母様…?」「なぁに」「アタシが大きくなってもずっと一緒にいられるよね?」「えぇ、勿論よ!」「ホント?約束よ!」 身体が弱く、よく床に伏せっていたママ。 ホントは長く生きられないって、自分でも分かっていたくせに。 大丈夫だって、いつもアタシを励まして……。 だけど。 あれはママなりの気遣いだって知ったのは、ママが亡くなった後だった。 「ッ……嘘つき」 眠りについたママに、アタシはすがりつき泣いた。 赦せなかった。 ママを悲しませる事ばかり言っていた自分に。 辛かった。 それでも嘘をつき続けるママに。 寂しかった。 もう、優しく抱き締めて貰えないと思ったから。 彼女がアタシの頭を撫でながら、優しく抱き締めてくれた時、アタシは大声を上げて泣き叫んでいた。 「うぅ…あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ……マ゛マ゛ぁぁ……マ゛マぁぁぁ!!」 すがりつくと、彼女は一層強く抱き締めてくれた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加