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「あんた、カオリの彼氏だったのか。紛らわしい真似しやがって」
顔を歪めて、タケダは右腰をさする。
「父さん、私が悪いのよ。天体観測のチケットにペアで当たるなんて思いもしなかったから驚いちゃって。凄い倍率なんだよ」
「そりゃそうだろ。俺だって拝んだことがないんだから。歴史的な出来事で政府が特設会場まで作って、席を用意してくれた。生きているうちに出くわしたら運がいいくらいだ。だがな」
タケダは苦笑いをしながら、作業着のポケットに手を入れる。二枚の紙切れをテーブルの上に出した。
「俺も当選したんだよ。カオリと行こうと思って、二名分」
「凄い。それじゃあ、皆で行きましょう」
満面の笑顔を二人に振りまいて、マサヒコが言う。
「そうか……しかし合計四席だから、一席分がもったいねえな。うちは母ちゃんがいないし二人きり。マサヒコ君は誰かほかに連れていきたい奴はいないのか」
「この面子で、友人を連れてもしょうがないです。三人で行きましょう。広く座れますし、僕らの荷物置き場にもなる」
介助モードになった椅子に支えられたタケダは、マサヒコとムーンシャインを飲み交わす。マサヒコは火星ロケットの設計をしているという。同じ技術者同士で話は盛り上がった。
他に客も来なかった。二人が談笑する姿は傍から見ると、仲の良い親子。または、職人と後継者に見えた事だろう。
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