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あっという間に店を閉める時間になった。
マサヒコはカオリを手伝い、後片付けをしている。タケダは3D映像を漫然と眺めていた。男性アナウンサーが立体的な手を振り回す。
【次回は話題の天体観測を生中継いたします。驚愕のスペクタクルショーをご自宅へお届け。ご期待ください】
「父さん、帰るよ」
と店長が声かけし、タケダは映像を消す。腰が痛くて動けねえよ、と文句をつける。
席までやってきたカオリがパワーアームを操作して、彼をひょいと抱きかかえた。死ぬまで達成したくないリスト五位の〝娘にかかえられる〟を成し遂げてしまい、タケダは思わず赤面する。しかも、お姫様抱っこ。
マサヒコが車の扉を開けてくれ、父は丁重に後部座席に寝かされた。
「僕が送ります。お二人の車は帰宅モードにしたので、自動的に家に戻っているはずです」
「マサヒコ君、悪いな」
「とんでもない。僕こそお義父さんにご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。しかし親子で仲が良い。羨ましい」
マサヒコが車の自動操縦スイッチを起動させる。緑のランプが灯り、ナビが行き先を尋ねてくる。タケダが住所を伝えた。車は上空へと浮かび上がり、音もなく走り出す。
「父さんは子離れできていないのよ。年取ってからの子供だから、私を気にかけてくれるのは有難いけど。もう立派な社会人なんだから、心配しないで欲しい。一昨年、母さんが亡くなってからは、頻繁に店に来る」
「そんなに足しげく通っちゃいない。今は工場が閑散期だから来ているだけだ」
タケダは急いで反論する。
「でも、今日はマサ君と父さんを引き合わせられて良かった。楽しそうに喋っていたし。父さん、男の子が欲しかったって言ってたしね」
カオリが小さく笑い声をたてる。
「俺が腰痛で動けないのを幸いに、余計な事をぺらぺらと」
楽しそうなのは、カオリの方だ。結婚を考えている男がいるとは聞いていたが、好いた男の隣だとこれほどはしゃぐ子だったのか。見たことの無い娘の表情に、安堵と一抹の寂しさを覚える。
後部座席で横になっているタケダは、二人の会話を邪魔しないよう、目を閉じて寝たふりをする。酒の影響もあるのか、そのうち本当に眠ってしまった。
車は夜空を流星のように駆け抜けて、皆を家まで送り届けた。
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