神降臨

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神降臨

(やはり、そう簡単には従ってはくれないか)  ヨシタカは、禁断の奥の手を使うことにした。 「腐敗の魔女! もしも私たちの願いを聞き届けてくれるなら、あなたにマリア観音様の福音を授けます!」  言ったそばから、違った恐怖で汗がダラダラ流れる。  追い詰められて、許可なく勝手に宣言してしまった。あとでどうなるかことか。想像もしたくない。 「……」  腐敗の魔女は、動きを止めた。  ヨシタカの背後に強烈なオーラを感じている。それは、自分よりはるかに格上で高次元の存在。対峙したことで、恐怖から勝手に体がブルブル震え出す。  敵わないと本能で悟った腐敗の魔女は、手をひっこめた。 「apodektos」  一言残して、腐敗の魔女は逃げるように魔方陣の中へ消えていった。 「予想以上の効果だった」 「めえ~」  バフォメットだけは、元気に起きている。 「確かに和むな」 「めえ~」  喉元を優しく撫でた。 「ううん……」  鳴里教授が一番に目を覚ました。 「終わりましたよ」 「魔女はどうなった?」 「『apodektos』と言って消えていきました」 「本当か!」 「どういう意味か分かりますか?」 「承知したという意味のギリシャ語だ。腐敗の魔女がこちらの要望を聞いてくれたということだ。でも、一体、どうやって説得した?」 「私の守護神、マリア観音様の力を借りました」 「そんなことが可能なのか?」 「禁じ手なんですけどね。あとで叱られるでしょう。でも、ミチルさんが助かるなら構いません。覚悟は出来ています」  ミチルと常岡泰都が起きるまで待っていると、一緒に目を覚ました。どちらもキョトンとしている。 「ミチルさん、全て終わりました。呪いは解けたはずです」 「魔女は?」 「粕谷スカヤのところに行きました」  ヨシタカは、すまし顔で答えた。 「私の体、治る?」 「治ります。時間は掛かるかもしれませんが」  ミチルが半信半疑で包帯を解くと、下から白い肌が出てきた。 「見て! もう治っている!」  ミチルは大喜びした。 「こんなに早く効果が出る?」  さすがに早いと首を捻っていると、マリア観音が上から手をかざしていることに気付いた。  神降臨で研究室全体が聖域となり、暖かい光がミチルの全身を包む。それにより、腐った部分がどんどん回復していった。 「これは、マリア観音様の奇跡です」 「マリア観音様? どこに?」  鳴里教授、ミチル、常岡泰都には、マリア観音の姿が見えない。それなのに、魂で感じているのか、感動の涙が流れてくる。  お互いの涙を見て不思議がった。 「二人共、泣いているのか?」 「鳴里教授だって、泣いていますよ」 「あれ? なんでだろう?」 「どうして涙が出てくるんでしょうか?」  ヨシタカは、マリア観音の足元に跪いた。 「勝手なことをしました。どうかお許しください」  マリア観音は、慈悲のほほ笑みとともに消えた。  ミチルを助けるためだったと分かってくれたようだ。  立ち去ってもオーラの影響は凄まじく、研究室に籠っていた邪気が全て払われて清々しくなっている。  鳴里教授は、初めての体験にとても感動した。 「元気が出て驚いたよ。神とはこんなに凄いのか。とても口では言い表せない。元は人間だった魔女なんかに、太刀打ちできるはずがない!」  魔女に恐怖し、神に感動し、研究室はパワースポット化し、目まぐるしい一日となった。
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