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カランコロンと音がして、包帯姿のミチルが入ってきた。先ほど呼び出してから、わずか一時間だ。
スカートから見えている足は、右だけでなく左にも包帯が巻かれている。首元にも包帯。腐敗が進んでいる。
「いらっしゃいませ」
「……」
ミチルは黙ってヨシタカを見ている。
ヨシタカは、すまし顔で鳴里教授の隣を指示した。
「こちらの席にどうぞ」
「シンデレラ頂戴」
ミチルは、注文しながら鳴里教授の隣に座った。
鳴里教授は、特に関心を示していない。
(何も起きないなあ)
ヨシタカが期待したのは、二人が出会うことで生じる化学反応だった。
ヨシタカは、密かに鳴里教授を疑っていた。
本当は粕谷スカヤを知っていて、手伝ったかもしれないと考えていた。
それというのも、肉片に切り取られた形跡がないと証言出来るのは、元の形を知っている鳴里教授だけである。つまり、いくらでもウソを吐けるのだ。
鳴里教授の目的は、魔女の肉片を食べた人間がどうなるか知りたかったから。あるいは、粕谷スカヤに協力する必要があった。そんなところだろうと推測した。
しかし、まともに聞いたところで正直に答えるはずはない。そこでミチルを呼び出した。
二人が顔を合せれば、何か起きるのではないかと思ってのことだが、変わった様子は見られない。狼狽も困惑もない。酔っぱらっていて、ここまで完璧にとぼけられないだろう。
つまり、鳴里教授は関係なかった。完全に読みが外れた。
「急に呼び出して、何なのよ、一体」
事情が分からないミチルは、突然呼び出されて不機嫌だ。
「君たち、もしかして知り合いか?」
「そうです」
「可愛い子じゃないか。付き合っているのか?」
「いえ。違います」
「そちらこそ、ヨシタカさんとはどういう関係ですか?」
「一言では言えない関係だけど、今夜はただの客とバーテンダーだな」
わざと意味深な言い方をして、ミチルの出方を見ているように見えた。
ヨシタカは、ミチルの方に期待した。ミチルが粕谷スカヤを通じて鳴里教授を知らないとも限らない。
「ところで、ミチルさんはこちらの方に見覚えはありませんか?」
「え? いいえ。どうして?」
こちらも読みが外れる。
「この方は鳴里教授。粕谷スカヤと同じ大学の教授です」
「えー⁉」
ミチルは、魔女の恰好で酔っぱらっているその姿が、大学教授にとても見えなくて驚いている。
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