盗聴器

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「常岡君。君に聞きたいことがある」 「何でしょうか?」 「この部屋に盗聴器が仕掛けられているようなのだが、何か知らないか?」 「え? いいえ……」  明らかに動揺して、視線が泳いでいる。 「盗聴器って、なんの話ですか?」  口留めされているのか、とぼけている。 「君は岳渕君と特に仲が良かった。彼から何か聞いているだろう?」 「彼が盗聴器を仕掛けたとでも?」 「本当に何も知らないんだね?」 「勿論です」 「君の単位だが、前回の試験の結果があまりよくなかった」 「ええ⁉」  鳴里教授は、機転を利かせて話題を変えた。  単位をエサに、彼の口から真実を引き出そうとしている。 「このままでは単位をやれないかもしれない」 「そんな! お願いします! 単位を下さい! そのために研究室を週に一回掃除してきたし、論文発表のお手伝いもしました!」  鳴里教授に取り入るために、姑息な手段を使っている。 「そのことに関しては、とても感謝しているよ。ところで、隅々まで掃除をしてきた君なら気づいていただろう。この部屋でいつもと違っていたものに」 「いえ何も知りません……」  口を割らなかったが、その代わり、ある一点を見つめた。  視線の先に不自然なコンセントカバーがある。それをヨシタカは外した。 「これ、盗聴器ですね」 「あ、ううう……」  彼の反応から確信を得たヨシタカは、それを思いっきり踏みつぶして破壊した。 「これでもう大丈夫。会話を聞かれることはないでしょう」 「まさか、ここでの会話を聞かれていたとは」  鳴里教授は、衝撃のあまり立ち眩みしてソファにへたり込んだ。 「哲学者の小路で後ろにいたのも、奴の差し金?」 「そうです。ここに来た目的を探るのと、粕谷スカヤについて訊かれたら、学校に来なくなったと吹き込めと言われてていました……」  手のひらの上で転がされて、実に不愉快である。 「常岡さん、彼は今どこにいますか?」 「えーと……」 「単位!」  怒り心頭の鳴里教授に一喝されて、常岡泰都は慄き観念した。泣きながら鳴里教授に土下座する。 「すみませんでした! それを見つけてすぐに彼から声を掛けられて、黙っていないとノートを貸さないと言われて、ついその通りにしてしまいました!」  真面目そうに見えて、そうでもなかった。 「哲学者の小路で後ろにいたのも、奴の差し金?」 「そうです。ここに来た目的を探るのと、粕谷スカヤについて訊かれたら、学校に来なくなったと吹き込めと言われていました……」  手のひらの上で転がされて、実に不愉快である。 「では、彼の居場所を教えなさい」 「歌舞伎町にいます」  それだけ分かれば充分だ。  ヨシタカは、鳴里教授に頼んだ。 「鳴里教授、腐敗の魔女を召喚してください」 「召喚して、どうするつもりだ?」 「代わりの生贄を差し出すのでミチルさんへの呪いを解いて欲しいと頼みます」 「そんなことが可能か?」 「初めての挑戦なのでどうなるか分かりませんが、やれるだけやってみます」  覚悟を決めたヨシタカを見て、鳴里教授は感動した。 「君は根性あるなあ。よし、やってみよう!」  鳴里教授の主導で、腐敗の魔女の召喚儀式を始めた。
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