包帯少女

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 ヨシタカが霊視すると、ミチルの魂は暗い闇の中にあった。  若い男と一緒にいるが、そいつは憎しみに歪んだ顔でミチルの口に何かを無理やり詰め込んでいる。 「やめて! イヤ!」  ミチルは必死に抵抗していたが、力に負けてそれをゴクンと飲み込んでしまった。 「オエエエ!」  ミチルは、必死に吐き出そうと苦しんでいる。  男がそれを見て不敵な笑みを浮かべている。やがて満足したのか姿を消した。 (何を食べさせたんだ?)  ヨシタカからは、良く見えなかった。  年配の男女が遠巻きにミチルを心配そうに見ている。しかし見ているだけで、何故か近づくなどの行動を起こさない。  年配女性は、ミチルと顔が似ているから母親だろう。  母子家庭だと聞いていたから、年配男性は父親ではないのだろうか。 (ここはどこだろう?)  ミチルを取り巻く闇を見ると、大きな顔が浮かんできてギョッとした。 (何だ? こいつは)  それは人ではない。見るからにヤバさを感じる化け物だ。  黒目は濁って、白目は黄ばみ、全体に精気がない。長いわし鼻。薄い唇。尖った顎。  顔の皮膚は、ただれてびらんとなっている。黒ずんだただれは、歌舞伎の隈取りのように見えた。  この化け物を言い表すとしたら、魔女だろう。  魔女が憎しみの目でミチルを睨んでいる。  いつまでも見ていては、こちらの存在に気付かれそうだが目が離せない。  魔女がギロリとこちらを睨んだので、危険を感じて霊視をやめた。  ヨシタカは、目を開けても恐怖からしばらく声が出せずにいた。全身がじんわり汗ばむ。 「……」 「あの……、どうでしたか?」  ミチルは、黙っているヨシタカの顔色を窺いながら、おずおずと訊いた。  ヨシタカは、一つずつ伝えることにした。 「年配の男女が君を心配そうに見ていました。もしかして、お母さんかも」 「この人?」  ミチルは、スマホで写真を見せてくれた。  間違いなく、霊視で見た女性だ。 「そうそう、この人です」 「母です」 「そうですか。お母さんの心配の念が届いていましたよ」 「そうですか……」  ミチルは、嬉しそうではない。むしろ気が重そうだ。親子関係に問題でもあるのだろうか。 「お母さんと寄り添うように年配の男性がいました」  ヨシタカは、容貌を伝えた。  白髪オールバックで、背は高く、やせ型。整った顔立ち。 「その人、多分母の彼です」  写真はないようで、見せてくれなかった。 「じゃあ、君のお父さん? でも母子家庭なんだよね?」 「私から見たら、父親面した同居している赤の他人です」  随分と辛辣な言い方だ。 「二人は結婚していないの?」 「そうです。私を心配しているなんて、ちゃんちゃらおかしい。邪魔な存在なのに」  家庭に問題を抱えていそうだ。 「それと、二十歳ぐらいの青年がいました」  ミチルは、驚いた。 「もしかして、この人じゃ?」  スマホで見せてくれた写真に、その青年が笑顔で写っていた。隣でミチルも笑顔でいる。幸せそうなカップル写真だ。 「この人です。どのような関係ですか?」 「元カレです。名前を粕谷スカヤと言います」 「元カレということは、もう別れているんですか?」 「はい。数週間前に別れました」  別れたにしては、ミチルに攻撃的であった。 「もしかして、別れ話がこじれていたりしませんか?」  ヨシタカの指摘に、ミチルはとても驚いた。 「そんなことまで分かるんですか? そうです。かなり揉めました。何とか分かって貰えましたけど、大変でした」 「その人から暴力を振るわれていたでしょう」  ミチルは、驚きのあまり、両手を口の前に持ってきて息を飲んだ。 「そうなんです! それで別れたんです! 凄い! 本当に当たる!」 「霊視の結果では、まだ終わっていませんね。その元カレは、まだあなたに執着している」 「そんな!」  夜の世界にいると、男女のもめ事ばかりが耳目に入ってくる。  別れ話のもつれから理性を失ってしまった人間が、世の中で一番厄介な存在だと思う。そのような人間は、はい分かりましたとすんなり別れたりしない。  一見大人しく引き下がったように見せて、裏で復讐することも大いにある。  ミチルに付きまとう魔女には、元カレが関係しているような気がした。
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