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人が普通に生活していれば、魔女と出会うことはない。恨みを買うことはもっとない。
「魔女のような化け物が、君を見ていたんだけど」
「魔女?」
「何か心当たりはある?」
「魔女? さあ?」
ミチルは、サッパリ分からないという顔で首を捻っている。
本人に心当たりがないのなら、元カレが関係しているのだろうか。
「元カレが君に何か無理やり食べさせていたけど、そんなことあった?」
「ウソ!」
「え?」
急にミチルが大声で否定したので、ヨシタカは驚いた。
「あ、ごめんなさい。そんなことまで視えるんだって、吃驚して興奮しちゃった!」
「ああ、そう。じゃあ、あったんだ」
「あった、あった。ただ、無理やりじゃなかった。別れ話をした時、最後に俺の手料理を食べて欲しいって頼まれたから、仕方なく食べた」
「なんで食べたの? 危ないものを盛られる危険があるから、普通は食べないよね。もう少し警戒したほうがいいよ」
「食べないと別れないって言うから。それで別れてくれるならいいかって」
「元カレって、料理が得意だったの?」
「カフェでアルバイトしていて、調理も任されているから、俺は料理が出来るっていつも豪語していた。だけど、自慢するだけで、手料理を振る舞ってくれたのは、それが最初で最後になったわ」
「その料理は何だった?」
「ブラウンシチュー」
「美味しかった?」
ミチルは、一瞬顔をしかめた。
「ルーは市販品だったし、全体的に普通だったかなあ」
「具材は?」
「えーと、豚肉、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、それと、何かのキノコだった」
「キノコ?」
「うん。よく分からないものが入っていたから、これ何って聞いたら、キノコって答えた」
「何のキノコか聞いた?」
「それも聞いたけど、忘れたってとぼけられた」
怪しいが、キノコ程度で魔女の召喚は無理だろう。
でも、これは霊視の結果と関係があるような気がする。
元カレは、最後に何かを食べさせようとした。それは、キノコに似た食感のもので、彼女の口に入れるために、誤魔化しやすい煮込み料理を選んだに違いない。
「何か気になりますか?」
「いろいろね」
全てを明らかにするには、時間が掛かりそうだ。
マスターの出勤時間になった。
「悪いけど、今日は帰ってください」
後から連絡すると約束して、ミチルを引き上げさせた。
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