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魔女
ヨシタカは、大学に登校すると、霊視に出てきた魔女を調べようと図書室へ直行した。
静謐な空気漂うこの場所には、世界の英知が集まっている、とは言え、魔女に関する本などあるのだろうかと、懐疑的ながらもパソコンを使ったデジタル検索で蔵書の目録データベースを見ていく。大分類から小分類に絞り込んでいくが、魔女に関する本はなかなか見当たらない。
プロに聞くのが手っ取り早いと、貸出受付にいた若手司書に聞いた。
「魔女に関する本を探しているんですが、パソコンでは見当たらなくて」
「魔女ですか? 西洋の?」
「ええ、まあそうです」
東洋に魔女っているのかなと、その質問を疑問に感じたが、すぐに昔のオリンピックで活躍した女子バレーボールチームが東洋の魔女と呼ばれていたなあと思い出した。でも、それは普通の人間である。
若手司書は、カタカタとキーボードを叩いて、「宗教学でありますね」というと、書庫から本を持ってきた。比較的新しい新書だ。
それを受け取ってパラパラと見てみるが、ほんのちょっとしか触れられていない。それもありきたりの情報。これなら、ネットですぐに見つかる。ネット検索はとうにしている。
「もっと他にありませんか?」
若手司書が困っていると、ベテランっぽい司書が出てきて、「もしかして、まだ登録されていないかもしれません」と、書棚の引き出しを開けた。
そこにびっしり詰まったカードを素早くめくっていく。そして、一枚のカードを引き出して若手司書に渡した。
「君、これを持ってきて」
「はい」
若手司書がそれを手に、奥へ入っていく。
「さきほどの本は、ここの教授が執筆しているんですよ」
「そうだったんですか」
「宗教学で教鞭を取っている鳴里拍亥教授といって、知りませんか?」
「宗教学はとっていないので」
「授業は面白いですよ。その教授がかなり変わり者でね。先ほどの本は、鳴里教授の著書で献本なんで、検索すると一番に出てくるようになっているんです」
話している内に、若手司書が「これですか」と、古い専門書を持って戻ってきた。
「ああ、これだ」
ベテラン司書は、懐かしそうにそれを見た。
「鳴里教授が若いころ、何度も借りて行ったからよく覚えていた。よほど有益な情報が載っているんだろうと。ただし、原書なので簡単に読めないよ。たしか、古代ギリシャ語だったかな。それでデータベースに登録していないんだよね。これを読むのは変態教授ぐらいだろう」
とうとう、本音で呼び出した。
「大丈夫です」
受け取って中を見ると、横文字で、それもペンで書かれてミミズがのたくったようにしか見えない。
ヨシタカは、霊視で本を読める。使われている言語は関係ない。
「ああ、ちなみに持ち出し厳禁、コピー厳禁、当然、写真撮影禁止だから」
「では、どうやって覚えれば?」
「今どきの大学生だな。写本だよ、写本。自分で書き写すんだ。それと、貴重な本だから、直接書き込んだりしたらダメだよ」
そのほか、同じ机で飲食禁止とか、紛失しないよう席を離れるときは戻すようにとか、細々注意された。
「その本に何かあったら、変態教授が怒り狂うよ」
そっちの方がよほど怖そうに言った。
ヨシタカは、全部承諾して、その本を借りて近くの机に座った。
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