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目の前のテーブルに、四角い皿を一枚置いた。そこにはキッチンペーパーが敷かれ、花弁の周りにある緑の軸のような部分にだけ白い衣を纏ったタンポポが、無造作に並べられている。
「天ぷら?」
「そう」
伯母が返答しながら正面の席に座ったのを確認してから「――いただきます」と手を合わせ、恐る恐る箸を伸ばす。
ひとつつまんで噛んだ瞬間、
「にっが!」
独特の苦みと風味が口いっぱいに広がった。
「だから言ったじゃない。野草なんてみんなそんなもんなの」
こりゃもはや薬だなぁと思いながら食べ進めるうち、目の奥がじんわりとして、視界が滲む。これは、苦みのせいじゃない。
目から生まれた熱いしずくは、ぽろぽろ、ぽろぽろと、頬を濡らして落ちていく。
どうしてだろう。とっくに理解していたはずなのに。どうにか駆けつけた彼のお父さん、それにお母さんと私の三人で最期を看取ったときも、棺で穏やかに眠る彼を見たときも、涙なんか出なかったのに。
お疲れさま、楽になったねって、そっちのほうが大きくて。散歩の翌日から最後の一週間は、ろくに喋らず、荒い息遣いでときどき唸りさえして、本当に苦しそうだったから。
――あぁ、そうか。私やっと、かなしいのか。
彼はもういない。二度と会えない。
その残酷すぎる現実に、頭だけじゃなく、心がようやく追いついたんだ。
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