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怪我をした足は、あの日、目覚めてから数時間後にはまるで何もなかったように、痛みも傷跡も残らず消えていた。
それから何日もあの夢の世界に行こうとしているのに、あれ以来パタリと夢を見なくなってしまった。
そして、その夢の記憶も日を追うごとに曖昧なものになっていった。
あの日から二週間ほど経った夜、女子会からの帰りに私はどういうわけか、いつもは通らない公園を横切った。
まんまるのお月様が雲間から顔を覗かせて私を見下す。雲にできた光の陰影が美しくもあり、少し不気味でもある。
「ミャー…」
園内の道の端に段ボールに捨てられている猫を見つけた。
「君が私を引き寄せたのかにゃ?」
私は、あれから抜け殻になっている自分をどうにかしたくて、子猫を連れて帰ることにした。
黒猫だと思ったその猫は、抱き上げると顎から胸の部分と、足先だけ靴下を履いたように白いハチワレだった。
―――チリン…
鈴の音が聞こえた気がした。
パァっと辺りが薄っすら明るくなった。雲が流され、くっきりと満月がその存在を主張する。
冷たい風が通り抜けて、私がくしゃみをすると、子猫が私の腕の中から抜け出してトテトテ走り出した。
「ミィー…」
私は「待って…」と、子猫を追いかけた。
すると、その先に男が立っていて、男は子猫を抱き上げた。
「この猫あんたの?」
男は子猫を撫でながら、緩んだ表情のまま私に視線を向けた。
私はこの男を知っている。
こんな偶然があるなんて…
こんな風に遭遇すなんて…
私は涙で視界が霞む。
ちゃんと、見つめたいのに…
良かった…無事でいてくれて…
「また、会えたね?」
メグルは目を細めて、優しく笑った。
ハラハラリと大粒の雪が躍るように舞い降りてきた。
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