月夜に夢の君と

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 遠くで何かが崩れ落ちたような音がして、和装の男が私の手を引いている。「ここから出ないと」と、男は和室の引き戸を開けて出口へと誘導する。  日本家屋の和室。床の間には水墨画の掛け軸と緑色の壺。  ―――え?ここはどこ?何でこんな…この人は?  「小夜子、こっちだ急いで!」  慌てた様子の男が、振り返って私の顔を見る。  端正な顔立ちの優しそうな男だ。私はこの男を知っている気がする…  頭がぼんやりして、フィルター越しに見ている世界のような、なんだかおかしな感覚だ。  非常時だというのに私はその場に立ち止まって、怪訝に思って男の顔をじっと見た。そして「さよこ…って誰?」と尋ねた。  男は驚いた顔をした。そして、すぐに何かを悟ったように言った。  「君は……あぁ、ここは君の夢の中…か」  夢…そう、夢だ。これは夢だ。  「兎に角ここを出なければ…」  男は再び私の手を引いたが、火の手が迫り、建物が次々に崩れ落ちる。吹きつけてくる熱風が勢いを増してきた。    熱い…  怖い…  なんてリアルな夢…    「夢だとしても、君を守るから心配はいらないよ…」    男は優しく微笑む。  私はその笑顔を見て、胸がギュッと苦しくなって何故だか目頭が熱くなった。  不意に、今まで見てきた夢がフラッシュバックする。  ―――この男は恭介、私は…小夜子?    そう理解した途端、私は慌てて握られていた手に力を込めた。  「恭介さん!逃げなきゃ…あなた瓦礫の…」  私がそこまで言い終わらないうちに、天井がみるみるうちに崩れ出した。  ガラガラズゴゴーーーン…    大きな音と共に私の視界は奪われた。  
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