20人が本棚に入れています
本棚に追加
和装の私は膝の上に白黒のモフモフの温もりを感じていた。ゴロゴロと喉を鳴らしたそいつは、まるっとした黒白のハチワレの猫だった。「お前可愛いにゃあ…」と撫でてやると、首に巻かれた赤い組み紐についた鈴がチリンと鳴った。
「…あ!」
私は辺りを見渡した。
日本家屋の和室。床の間に水墨画の掛け軸と、緑色の壺。
―――あの、夢の世界だ。
そう思った瞬間、部屋の引き戸が開いた。
私は驚いてビクっと体を揺らすと、膝の上にいた猫がぴょんと跳ねて引き戸の方へ逃げて行った。
「あんた…誰?」
引き戸から猫を抱いた和装の男が入って来て、私に尋ねた。
「わ、私は叶夜……恭介さん…?」
この男、見た目は恭介だが、恭介じゃない…?
「俺は…」と、猫を撫でながら男は首を傾げて何やら考え込んだ。
私は急に大事なことを思い出して、部屋の外へと飛び出した。和室の外側の引き戸を開けるとそこは縁側になっていて、その先は庭になっていた。
鼻の奥をツンと刺激するような冷たく乾いた冬の匂いがして、寒さで全身が粟立った。私は白い吐息を吐きながら、空を見上げた。
真っ暗な夜空には、まんまるのお月様が張り付いていて、私を優しく見つめた。
満月ということは、あの状況が起こるということ…
私は、縁側から怪訝そうな顔で私を見ている男に「ここから逃げなきゃ…恭介さんが…」と、訴えた。
「ちょっと待って、恭介って俺?状況が飲み込めない…それに、あんたは何者?」
何?何で?恭介はどこ?この人は誰?私は恭介を助けたくて…
―――私は恭介を助けに来た!?
そうか、少しずつ時間が遡っている…
私は恭介を助けるために来たのだ。
この夢の意味…
そういうことなのかも!
最初のコメントを投稿しよう!