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ジジにとって、この世に神様なんていないも同然だった。
だって、そうじゃないか。神様がいるのならば、どうしてこんな風に自分に意地の悪いことをするのか。そう、問いただしたくなる。
(……わた、しは)
目の前に立つ美しい青年を見つめて、ジジはぐっと息を呑んだ。
さらりとした金色の髪は風にふわりと靡いている。おっとりとして見える紫色の目は、ジジだけを映していた。
「……ジジ」
彼が、ジジの名前を呼ぶ。いきなり使用人に来客だと呼び出され、何事かと身構えた。その結果、目の前には――ジジがこの世で最も好きで、最も会いたくない人物がいて。
頭が混乱する。綺麗な笑みに、見惚れる余裕なんてなかった。
「フィリップ、さま……」
口が自然とその名前をついた。フィリップと呼ばれた彼が笑う。それはそれは、美しい笑みだった。けれど、その目の奥にはなにかしらの執着心が宿っているようにも見える。……背筋がゾクリとするような、感覚。
――彼は、怒っているのだ。
それを、ジジは肌で感じ取った。
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