2)真実の戸惑い

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2)真実の戸惑い

蒼は放課後は学童保育に通っていて、碧が迎えに行く午後7時まで過ごす。 学童では宿題をしたり、晴れた日は公園で遊んだり、友達とトランプをしたりなど、楽しく過ごしているようだ。 碧は歌手として多忙な日々を過ごしていたが、事務所やマネージャー・剛毅(ごうき)の計らいで、子育てと両立できるようスケジュールが立てられている。 5時半には仕事を終え、東京郊外の自宅近くの学童に、蒼を迎えに行く。 「碧さん、今日はね、トランプで大ちゃんに勝ったんだよ!」 「今日、本読みで先生に褒められたんだよ!」 「今日は友達と喧嘩したけど仲直りできたよ!」 帰りの車の中は、蒼の学校の話題で賑やかになる。碧は安全運転に徹しながらも、蒼の話を穏やかに聞いている。 蒼が楽しく、学校生活を送っているーー 碧はそれだけで安心していた。 何故なら蒼も、碧と同じように、 背中に藤の花が咲いているからーー ある日の夕食時、蒼は少し悲しそうな表情で、碧に問いただした。 「ねぇ、何で僕にはお母さんがいないの?」 蒼の何気ない質問に、碧は内心動揺した。 「僕、学童で言われたんだ。なんでお前んとこは、いつもお父さんが迎えにくるの?って」 学童には蒼のように片親の家庭もあるが、父親が迎えに来るのは蒼だけで、他は母親が来る。 碧はふと、蒼が身体の中に宿った事を思い出した。 あのときは…潤さんと喜んだっけ… その後、激しい痛みと共に、蒼の小さな命も「消え」、 潤さんと死のうとしたときに、蒼の声がして、また生きる道が開かれたんだ… 蒼、実は「お母さん」は、俺なんだよ… 俺の身体に蒼の命が宿り、離れ、また出逢えた… それは、男の俺が女に変わったから、できたこと… 碧は言葉を飲み込む。 俺の身体が、時折女性に変化する事。 子供を産む事ができる事。 果たして、蒼はこの事を信じてくれるのだろうか。 いつか、話をしなきゃな… 「碧さん?」 黙り込んだ碧は蒼の呼びかけに、我に返る。 「蒼…ごめんな…お母さん、いなくて…」 本当は…俺が「お母さん」なのかもしれないのに。 碧は言葉を更に飲み込んだ。 「でも、碧さんはご飯作ってくれたりするから、お母さんのような感じだよね!」 蒼の無邪気な表情に、碧は思わず微笑む。 「蒼、ありがとう…」 碧は消え入るような声で言った。その胸には、熱いものが込み上げていた。 その様子に、蒼はなぜ「お母さん」が存在しないのか、子供心に聞いてはいけない様子を悟った。 夜、蒼が寝静まり、碧はその無邪気な寝顔を見つめていた。 「ずっと黙ってて、ごめん…」 いつかは、俺自身の身体の事、俺の身体に宿っていた蒼が出ていった事、蒼と出逢うまでの事… 以前、蒼に出ていった理由を問いただそうとしたら、悲しそうに口をつぐまれてしまったが… 「いつかは、話さなきゃね…」 碧は蒼の寝顔を見つめながら、反芻するように呟いた。
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