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34)翡翠の藤
(翡翠さんが…戻ってこない?)
蒼と優陽は話し込む事に気を取られ、いつの間にか翡翠が消えた事を忘れていた。
「しまった、翡翠が危ない!」
突然、優陽の表情が固まり、咄嗟に事務所を出て翡翠の部屋に向かう。蒼も慌てて後を追う。
翡翠の部屋のドアを開けると、一人の「男性」の裸の姿があった。
後ろ姿ではあるが、引き締まった身体で「男性」というのが一目で分かった。
姿は「男性ーー?」
その背中には、藤の花が施されている。
(この部屋は、翡翠さんの部屋のはずなのに…)
蒼の目の前には、信じられない光景が広がっていた。
その首元には光るものがーー
「翡翠!!」
優陽は叫んだ。
翡翠は、頸動脈に刃を向けていたーー
「やめろ!」
蒼と優陽は間一髪、翡翠から刃を奪い、外に投げ出し、優陽は翡翠を後ろから抱きしめた。
背中一面に、翡翠色の藤ーー
その周りには、過去の朱く激しい傷みが。
そして、今迄女性と思っていた翡翠の身体が、男性の形をしているーー
ただ、驚くばかりの蒼。
今迄になく暗黒に満ちた優陽の表情。
翡翠の全身は震えていた。
明らかに怯えながら、前半身の2箇所を隠していた。
(翡翠さんも、碧さんや潤さん、俺と同じだ。それならば…!)
苦しげな翡翠を見ながら、蒼は一大決心をした。
ずっと昔から、背中に咲いている花の事、
そして、最近になって起こり始めた、自らの「変化」を、今、この二人には話しておかなければーー
「翡翠さん、優陽さん、俺の身体をを見て!」
蒼は突然、着ていたコットンシャツを乱暴に脱ぎ捨て、一瞬のうちに一糸纏わぬ姿になり、二人に背を向けた。
優陽と翡翠の目の前の背中いっぱいに、薄紫色の藤が咲いていたーー
優しい雨のような、薄紫色の藤。
優陽と翡翠は、見惚れるのと同時に信じられない気持ちで蒼の背中を見ていた。
蒼は、今度は二人の方に身体を向けた。
前半身には、穏やかな丸みを帯びた乳房が。
そして、蒼の身体も、「女性」に変化していたのだー
蒼はどこも隠さずに、ありのままの姿を二人に晒していた。
呆然と佇む、優陽と翡翠。
「蒼くん、君は…一体…?」
蒼の表情は、優しい体つきとは裏腹に、暗い影を纏っていたーー
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