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36)「僕がいる」
長い間、蒼、優陽と翡翠の間には、闇を纏うように重い沈黙が流れていた。
固く目を閉ざしたままの蒼。
背中に咲く薄紫色の藤を、驚きながら見つめる優陽と翡翠。
「翡翠さん!僕がいるから!一人じゃ無いんだから!」
沈黙を破るように、蒼は心の底から声を振り絞る。
「翡翠さん!好きだ!」
蒼は胸の奥に秘めていた、ありったけの想いを翡翠に伝えた。
翡翠と出逢った瞬間から、ずっと…ずっと秘めていた想い。
いつか想いが叶ったら、翡翠と一緒にあの藤棚を見る…
蒼は、翡翠の自分に対する想いは知らない。
もしかしたら翡翠は、自分の事は何とも想っていない、嫌いかもしれない…
蒼はそれでも、翡翠を一途に愛していた。
(翡翠さんを、好きなだけでいいーー)
優陽は蒼に目配せして、部屋を出た。
その表情は、穏やかだったーー
「翡翠さん…服を着よう…」
蒼は上着を翡翠に渡した。
翡翠は上着を羽織るように着た。
蒼自らも、衣服を身につける。
「…とう」
「ありがとう…」
か細い声だが、確かに翡翠の声だった。
その声は、確かに蒼に届いたーー
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