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37)叶わぬ想い
「蒼…くん…」
翡翠が初めて蒼の名前を呼ぶ。
その表情に喜びはなく、ただ揺れる悲しみに満ちていた。
翡翠の表情が、いつになく激しく歪む。
「こんなあたしを…好きになっても…」
「駄目なの!あなたと一緒にはいられないの!」
翡翠は激しく首を振りながら叫ぶ。
更に、振り絞るように出した言葉は、蒼を一瞬で絶望のどん底に突き落とした。
「バイト…辞めてください…そして、もう私の前に現れないでください…」
翡翠のはっきりとした「拒否」と「クビ宣告」
翡翠には蒼の職を解く権限はないとはいえ、蒼は彼女の気持ちにショックを受けていた。
(翡翠さんに縋りたくても、迷惑になるだけだーー)
(翡翠さんの想いから身を引かなければ…)
(翡翠さんを想うことすら、彼女にとっては迷惑かもしれない)
蒼は強く言い聞かせながらも、現実を受け入れる事ができない。
その足元は、悲しみで震えていた。
(翡翠さん…ごめんね…好きになってしまって…)
蒼は部屋を出て行こうとドアを開けた。するとその衝撃で、一枚の紙が棚から落ちてきた。
小さなメモ用紙で、グチャグチャに丸められた跡がある。
そこには、目を疑うような言葉の数々が書かれていた。
筆跡は複数の人物が書いているようで、どれも殴り書きのようだった。
『妖怪出ていけ!』
『死ね!キモい!』
『汚ねーんだよ!』
(何だ…これ?翡翠さんの字じゃない…!?)
(この手紙は…一体…?)
蒼は振り返り、翡翠を見た。翡翠の表情が一瞬にして怒りに変わる。
「見ないで!早く出て行ってよ!」
翡翠はメモ用紙を蒼から奪い取ると、細かく破り捨て、彼を部屋から乱暴に追い出した。
バタンーー!
ドアがまるで、翡翠の激しい拒絶を表すかのように大きな音を立てて閉まる。
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