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39)生きていて
蒼は息を切らせながら、優陽と翡翠の自宅に辿り着いた。
地下鉄や電車を乗り継いだはずなのだが、どうやって辿り着いたのか記憶がない。
蒼はずっと、翡翠の無事を祈りながら向かっていたのだ。
「蒼くん…」
優陽の表情は青ざめ、苦悩に満ちていた。
翡翠の居場所を考えられるだけ探したが、姿がない。
「翡翠は不安定な状態なのに…私が…目を離さなければ…出かけなければ…」
「優陽さん、自分を責めないでください!今は翡翠さんを探しましょう!」
翡翠に気持ちを否定されても、翡翠の身の安全だけは守らなければーー
まずは翡翠を見つけることが、蒼の気持ちを駆り立て、優陽にも発破をかける。
ところがーー
優陽の憔悴ぶりに、蒼は気が気でない。
目の前の優陽は、今にも崩れそうだ。
「優陽さん、俺が探すので、休んでてください!」
「携帯はオンにしててください。見つかったらLINEに流しますから…」
蒼は、優陽に寝室で休むよう促した。
「蒼くん、ありがとう…」
優陽は不安そうな様子ながらも、安息の溜息をついた。
「蒼くん!」
寝室を出て行こうとする蒼を、優陽は必死に叫び呼び止め、はっきり告げた。
「翡翠は…間違いなく君を必要としている…」
蒼は無我夢中で、翡翠を探し続けた。
「翡翠さん!」
翡翠が行きそうな公園、花壇など探してみるも、姿がない。
誰かに、何処かに連れ去られてなければ良いがーー
(ここはーー!?)
蒼はいつの間にか、岸壁の下に荒波が聳える場所に辿り着いていた。
転落したら、命はないーー
そしてここは昔、碧が身を投げようとしていた場所。
蒼は、潤に導かれ碧を見つけた瞬間を思い出し、胸が痛む。
蒼は、激しい波に向かって身を投げようとする翡翠に飛びかかった。
「翡翠さん!」
聞き慣れた声は、翡翠に届いた。
翡翠が一瞬、蒼の方を向く。
二つの瞳が合った。
翡翠は蒼から、目を反らさなかったーー
翡翠の瞳には、懐かしい姿が映っていたーー
(遠い昔に、どこかで逢ったようなーー?)
「翡翠さん…!」
蒼は翡翠に向かって手を伸ばし、届いた瞬間、
二人は、激しい波へと吸い込まれていったーー
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