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その後も、ぼくのスマホは度々鳴った。
いつもいつも、奈々子さんからの呼び出しは急だ。
ぼくの都合なんて、一切おかまいなし。
でもぼくは、そんな奈々子さんからの呼び出しには、抗うことなどできるはずもない。
その度にぼくは駆けつけ、2人で夜遅くまで飲み明かし、
そして朝まで過ごした。
ぼくの腕の中で眠る、奈々子さんが愛おしい。
でも、ぼくらはつき合っていない。
つき合っている訳ではないのだが、お互いを必要としている。
寂しさから逃避なのか。心の穴を埋める。
ぼくも、奈々子さんも・・・
そんな曖昧なぼくらの関係が、もう何年も続いた。
◆◆◆◆◆
しばらくして、奈々子さんの30才の誕生日を迎える。
ぼくは意気揚々とプレゼントを買い、今度はぼくの方から誘って、一緒に誕生日をお祝いした。
奈々子さんは30才になり、ぼくは26才だった。
でも区切りだ。
断られるのを承知の上で、ぼくは奈々子さんに、結婚を申し込んだ。
そんなぼくの申し出に対して、奈々子さんからの返答は想像がつく。
きっと、こう言ってくるだろう。
「初志くんは、私の『好みのタイプ』とは、ちょっと違う」って。
それはそうだろう。
ぼくは『SHAVER』並みのイケメンには、天地がひっくり返ってもなることはできない。
しかし、
このプロポーズに対しての返事は、いつもとは違っていた。
断られるには断られたのだが、今回は理由が異なっていた。
それは「うーん。私まで行っちゃうと、緋真理が1人残されちゃうし・・・」というもの。
奈々子さんの言う『緋真理』とは、高校時代からの親友なのだという。
それに付け加えて彼女は『最後の盟友』でも、あるらしい。
いつもの断り文句、『好みじゃない』という言葉を使わなかったのは、
彼女がぼくに、気を遣ってのことなのだろうか?
だから今年は、断るにしても、理由が異なっていたのだろうか?
ところが翌月、ある事実が判明する。
奈々子さんの、生理が来ない。
あのとき、
誕生日で、盛り上がりすぎてしまったか?
一緒に妊娠検査薬を買いに行って、確認する。
すると案の定、奈々子さんは妊娠していることが判明。
「どうする?」と奈々子さんが問う。
このような状況になってしまえば、ぼくたちは後へ引くこともできなかった。
そのままの流れで、
ぼくらは結婚することになる。
◆◆◆◆◆
結婚式の会場で、ぼくは例の『緋真理』という女性に初めて会う。
眼鏡をかけたスレンダーな女性で、傍目から見ても、ずいぶんしっかり者であることが分かる。
サービス精神が旺盛で、ハチャメチャなところがある奈々子さんとは、真逆のような人だ。
でもそれは奈々子さんの、ほんの表の顔。
裏の顔は、とても寂しがり屋で、素のままの自分を認めてもらいたくて、たまらない人なのだ。
一見明るくて、紅葉みたいに派手やかな人だが、
湖面に写るその姿は、深く、暗い闇をはらんでいる。
でもそんなことは、ぼくだけが知っていればいい。
奈々子さんのいいところ、それはハチャメチャなお笑い担当。みんなの人気者。
その裏でぼくが、奈々子さんを支えるのだ。
彼女が生き生きと活躍できるように、一生をかけて。
結婚式が終わりを迎え、ブーケトスをするとき、
奈々子さんは緋真理さんに、こっそりブーケを投げる方向を指南していた。
そんなことを見せられると、他の女性陣は気を遣ってブーケを受け取ることもできない。
計画どおりに緋真理さんがブーケをゲットすると、奈々子さんは急に緋真理さんへ駆け寄り、そして頭を下げた。
「先に行っちゃって、ごめんね」
奈々子さんは泣き声だ。ほんとうに大切な友達なのだろう。
緋真理さんは、そんな奈々子さんを抱きしめる。
「いいよ、大丈夫。私は、奈々子が幸せになってくれて嬉しい」
「子供も『作んな』って言われてたのに、できちゃった」
そう言って、奈々子さんも緋真理さんに抱きつく。
しばらくすると高校時代の友達だという2人も加わり、
みんなで奈々子さんに祝福の言葉をかけていた。
奈々子さんは、みんなから愛されている。
そんな奈々子さんを、ぼくは任された。
だから、幸せにする。
幸せにするのだ、奈々子さんを。
そんなことを実感した、ぼくらの結婚式だった。
- 終 -
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最後は、またまた緋真理のお話です。
新作の書き下ろし。お楽しみに(笑)
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