第4話 逆さ紅葉は 黒く燃ゆ

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 その後も、ぼくのスマホは度々鳴った。  いつもいつも、奈々子さんからの呼び出しは急だ。  ぼくの都合なんて、一切おかまいなし。  でもぼくは、そんな奈々子さんからの呼び出しには、抗うことなどできるはずもない。  その度にぼくは駆けつけ、2人で夜遅くまで飲み明かし、  そして朝まで過ごした。  ぼくの腕の中で眠る、奈々子さんが愛おしい。  でも、ぼくらはつき合っていない。  つき合っている訳ではないのだが、お互いを必要としている。  寂しさから逃避なのか。心の穴を埋める。  ぼくも、奈々子さんも・・・  そんな曖昧なぼくらの関係が、もう何年も続いた。  ◆◆◆◆◆  しばらくして、奈々子さんの30才の誕生日を迎える。  ぼくは意気揚々とプレゼントを買い、今度はぼくの方から誘って、一緒に誕生日をお祝いした。  奈々子さんは30才になり、ぼくは26才だった。  でも区切りだ。  断られるのを承知の上で、ぼくは奈々子さんに、結婚を申し込んだ。  そんなぼくの申し出に対して、奈々子さんからの返答は想像がつく。  きっと、こう言ってくるだろう。  「初志くんは、私の『好みのタイプ』とは、ちょっと違う」って。  それはそうだろう。  ぼくは『SHAVER』並みのイケメンには、天地がひっくり返ってもなることはできない。  しかし、  このプロポーズに対しての返事は、いつもとは違っていた。  断られるには断られたのだが、今回は理由が異なっていた。  それは「うーん。私まで行っちゃうと、緋真理(ひまり)が1人残されちゃうし・・・」というもの。  奈々子さんの言う『緋真理』とは、高校時代からの親友なのだという。  それに付け加えて彼女は『最後の盟友』でも、あるらしい。  いつもの断り文句、『好みじゃない』という言葉を使わなかったのは、  彼女がぼくに、気を遣ってのことなのだろうか?  だから今年は、断るにしても、理由が異なっていたのだろうか?  ところが翌月、ある事実が判明する。  奈々子さんの、生理が来ない。  あのとき、  誕生日で、盛り上がりすぎてしまったか?  一緒に妊娠検査薬を買いに行って、確認する。  すると案の定、奈々子さんは妊娠していることが判明。  「どうする?」と奈々子さんが問う。  このような状況になってしまえば、ぼくたちは後へ引くこともできなかった。  そのままの流れで、  ぼくらは結婚することになる。  ◆◆◆◆◆  結婚式の会場で、ぼくは例の『緋真理』という女性に初めて会う。  眼鏡をかけたスレンダーな女性で、傍目から見ても、ずいぶんしっかり者であることが分かる。  サービス精神が旺盛で、ハチャメチャなところがある奈々子さんとは、真逆のような人だ。  でもそれは奈々子さんの、ほんの表の顔。  裏の顔は、とても寂しがり屋で、素のままの自分を認めてもらいたくて、たまらない人なのだ。  一見明るくて、紅葉みたいに派手やかな人だが、  湖面に写るその姿は、深く、暗い闇をはらんでいる。  でもそんなことは、ぼくだけが知っていればいい。  奈々子さんのいいところ、それはハチャメチャなお笑い担当。みんなの人気者。  その裏でぼくが、奈々子さんを支えるのだ。  彼女が生き生きと活躍できるように、一生をかけて。  結婚式が終わりを迎え、ブーケトスをするとき、  奈々子さんは緋真理さんに、こっそりブーケを投げる方向を指南していた。  そんなことを見せられると、他の女性陣は気を遣ってブーケを受け取ることもできない。  計画どおりに緋真理さんがブーケをゲットすると、奈々子さんは急に緋真理さんへ駆け寄り、そして頭を下げた。 「先に行っちゃって、ごめんね」  奈々子さんは泣き声だ。ほんとうに大切な友達なのだろう。  緋真理さんは、そんな奈々子さんを抱きしめる。 「いいよ、大丈夫。私は、奈々子が幸せになってくれて嬉しい」 「子供も『作んな』って言われてたのに、できちゃった」  そう言って、奈々子さんも緋真理さんに抱きつく。  しばらくすると高校時代の友達だという2人も加わり、  みんなで奈々子さんに祝福の言葉をかけていた。  奈々子さんは、みんなから愛されている。  そんな奈々子さんを、ぼくは任された。  だから、幸せにする。  幸せにするのだ、奈々子さんを。  そんなことを実感した、ぼくらの結婚式だった。          - 終 - -----  最後は、またまた緋真理のお話です。  新作の書き下ろし。お楽しみに(笑)
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