第5話 グリーン ネットワーキング

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「どうだい緋真理(ひまり)。新しい出会いは、あったかのう?」  私には、世話焼きおばちゃんがいる。  高校時代の友達、鍵山(かぎやま) 奈々子(ななこ) 32才(旧姓:牧田(まきた))、一児の母だ。 「そんな急に、都合のいい出会いなんてある訳ないっしょ」  電話口で私は、いつもの決まり文句を口にする。  奈々子は高校時代の同級生で私と同い年なのだが、去年、子供が生まれてからと言うもの自らのことを『おばちゃん』と自認するようになる。  なんでも近隣のママ友と交流が始まるようになって、  そうするとママ友の子供が、奈々子のことを『おばちゃん』と呼ぶそうなのだ。  最初はその呼び名に抵抗があったそうだが、  よくよく考えてみると、自分は子持ち。  ママ友の子供らから見れば、自分は健新(けんしん)くんのお母さん。(奈々子の子供は『健新』といいます)  であれば、  子供らから見たら、自分を『おばちゃん』と呼ぶのも、あながち間違いではない。・・・と、悟ったようだ。  しかしそれは、あなたが既に結婚して、子供がいるからこその話。  いくら同い年といえ、私は『おばちゃん』なんて呼ばれるのは、ゼッタイに耐えられない。  まだ花の独身なのだ、32才だけど。  (『花』かどうかは、この際不問とする)  私には、高校時代に仲の良かった友達が3人いる。  一番最初に結婚したのが美月(みつき)。24才のときに外交官と結婚し、今や2児の母。上の子はもう小学校に上がる。  次に結婚したのが夢佳(ゆめか)。29才に滑り込みで、7才年下のイケメンボーイと結婚。子供こそまだいないが、はた目からラブラブなその様子は、今年くらいにできてもおかしくない状況。  そうして取り残された私と奈々子は、『最後の盟友』として共に婚活に励んでいた仲だ。  そんな奈々子も30才のとき、いきなり授かり婚。  子供が、できたのだ。  いたのか、彼氏!  彼氏いたのに、私と婚活してたのかっ!!  しかもそのお相手は、3才年下の童顔ボーイ。  多いな、年下。  同じ年下でも、夢佳のカッコイイ旦那とは違って、奈々子の旦那さんはほんとうに見た目がボーイで、そこがピュアでまたイイ。  奈々子は昔から面食いだったので、納得のお相手なのだろう。  正直、うらやましい。(イカン、イカン!人のモノ!)  そんなこんなで、高校時代の『仲良し4人組』はどんどん片付いて、  気がつくと、  残るは、私だけになった。  最後にサプライズ婚をした奈々子が、残された私に気を遣って、色々と世話を焼いてくれる。  それが先ほどの『世話焼きおばちゃん』という訳だ。  そもそも奈々子は、BLの同人誌を作ってはコミケで売っているという、コアな趣味の人だ。  そのオタク仲間には、独身の男友達が多く存在するという。  一度、男性を紹介されて、奈々子のところと一緒にダブルデートしたことはあった。  しかし、  私以外の3人が全員、その道のオタク道を歩む人で、  何かある度に、意味不明な暗号?のようなワードで盛り上がり、  なんか、  すごい疎外感があった。  それでも奈々子は、私のことを思って男の人を紹介してくれたのだろうし、  感謝はしている。  だから、こうして定期的にかかってくる『おせっかい電話』にも、  私はイヤな顔ひとつせず、つき合っているのだ。 「もし出会うところがなかったら、また男友達を紹介してもいいよ?」  奈々子はそう言うが、  だが正直、それは奈々子に悪い。  奈々子だって、この4月から育児休業が終わり、子供を預けて職場復帰する。  子供だってまだ小さいんだし、  そんな大変な時期に、私の世話など焼いてくれなくてもよいのだ。  だから私は、一刻も早く彼氏を作らなければならなかった。  自分のため、そして奈々子のためにとっても。  しかし焦ったところで、ない袖は振れない。  男がいなければ、何も始まらない。  出会いがない。  この頃の私は、  そんな風に、進まない『彼氏作り』に焦っていた。  (『いつもじゃん』って言わないで!)
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