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「ただいまぁ」
私はだいたい、いつも夜21時くらいに帰宅する。
定時で会社から帰れることなんて、まずない。
就職した会社がたまたま実家から通える範囲だったので、この年になっても私は実家暮らしだ。
ひとり暮らしに憧れは持っていたものの、お金だけは間違いなく浪費する生活に躊躇しているうち、特段ひとり暮らしを必要とする明確な理由もなく(できず、と言った方が正確か。同棲でもできたらなぁ・・・)、ずるずるとこの年まで実家暮らしを続けて来てしまった。
家に帰ると、私の日課はベランダに置いた植物たちを部屋に取り込むことだ。
ミニサイズの鉢に入った多肉植物のセダム、雪だるまのように棘がつくサボテン(アイロステラという種)、黒松のミニ盆栽は、土の状態だけチェックしてベランダへ置きっぱなしにする。
「今日は、セダムにお水あげようかなぁ・・・」
水さしをセダムの鉢植えにあて、ゆっくりと注ぐ。
あぁ、落ち着く。
夜中に植物たちと対話し、お世話することが、今の私の唯一の癒しだ。
いつも何らかのトラブルを押し付けられ、気の抜けない、張り詰めた仕事から帰って、
その一日の疲れが、なんとなく和らぐ。心の救いにも似た。
私は、自慢じゃないが会社では、
同期の中で最初にエリアリーダーを仰せつかり、部下が3人いる。(20代の社員が2人と、年上のパートさんが1人)
私は、それなりに会社から認められていることを感じるし、
私の担当するエリアが、会社を動かしているという自負もある。
さっきはちょっと愚痴っぽいことを言ったが、やりがいがあって、実を言うと仕事は楽しい。
といっても全てが順風満帆な訳ではなく、陰口を叩かれたり、妬まれたり、イヤな上司には圧力をかけられたりもする。
それでも私は、私の仕事と、部下には誇りを持っている。
そうやって私は、会社に入ってからガムシャラにやってきた。
気がついたら、今こうなっているというだけだ。
だから、今まで『彼氏』ができなかったのかもしれない。
仕事を隠れミノにして、彼氏作りから目を逸らしていただけなのかも・・・
20代の頃は、まだ甘く考えていた。
仕事が大事。
辛いことも多かったけど、やればやっただけ、見返りとして返ってくる。
だから今、男作りにがっつかなくても、いつか自然と出会えるんじゃないか、と。そんな風に思っていた。
でも、そんな『出会い』はやって来なかった。
こちらから迎えに行かねば、来るものも来ないのだ。
今思うと、無為に過ごした20代の期間が、もったいなく、恨めしく思う。
最後に彼氏がいたのは、いつのことだろう?
そんなことも、指折り数えなければ分からないようになってしまった。
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ・・・
思い起こせば8年前。
もう、そんな昔かぁ!
それは私が、24才で大学院を卒業して、今の会社に入社した頃。
世間知らずな私は、
会社の先輩や同僚に誘われ、合コンを繰り返していた。
そこにスゴイ素敵な男性がいて、
誘われるままに連絡先を交換し、
その後に、2人で会ったりもした。
そのとき私は、初めての彼氏にドキドキして、
彼と会う度にワクワクして、
求められて、嬉しくて、
これが幸せなのだと思った。
ところが次第に、彼の熱量が下がっていく。
彼からの連絡の頻度が減って、
私は心配になって、
不安になって、
彼への連絡を試みる。
何度も、何度も、繰り返し連絡を取る。
ところがそれが、彼をますます不機嫌にさせ、
不審に思った私は、夜中にコッソリ目を覚まし、彼が寝ている隙を見て、彼のスマホを開けた。
パンドラの箱だった。
私以外にも、何人もの女性と関係を持っていた。
それも1人や2人ではない。
たぶん、同時進行なのだろう。
もう、数えるのもイヤになる。
履歴を追うたびに吐き気がした。
それに傷ついた私は、
それ以来、彼とはお別れした。
それをきっかけとして私は、もう2度と『人のスマホは見ない』と誓いを立てる。
だって、
見たっていいことなんて1つも書いてない。
その代わり、自分が傷つくことばかりが、たくさん詰まっているのだ。
私はその男性のことを『彼』と言ったが、
今思うと、あの人は『彼氏』ですら、なかったのかもしれない。
あの当時は認めたくなかったが、
もしかすると私は、彼にとっては『彼女』なんかじゃなく、ただいいように遊ばれただけの女だったのかもしれない。
でもそんなこと人には言えないので、今でも友達には『ひどい元カレだった』ということにしているが。
とにかく、あれはショックだった。
そういうことがあったから、
それ以来私は、男の人に対し、とにかく慎重になってしまった。
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