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それからの私は、マッチングアプリ以外の出会いの方策を模索する。
職場恋愛。
・・・いや、今さら職場でどうこうできる男性もいない。
せっかく会社で上手く行ってるのだ。その輪を乱したくない、という思いもある。
友達の紹介。
奈々子に紹介してもらったけど、うまくいかなかったしなぁ。
これ以上は、奈々子にも悪いし・・・
居酒屋や行きつけのバーなど。
みんなで飲み会ならいいけど、1人で飲みに行く?
私が?! 1人で???
・・・いや、よっぽどの酒好きならいいんでしょうけど、
個人的にチョット、ひとり飲みは無理があります(汗)
では合コン、街コン。
合コンも、友達は全員既婚者だしなぁ。
街コンも、行った感じ発展性薄いし・・・
でなければ趣味の活動、サークルなど。
私の趣味って、何だろう?
あ、仕事か。
などと、色々考えた結論として、
私の性に合って、誠実な男性が多そうな出会いの場は『趣味の活動、サークルなど』が有望なのかもしれない。
そう気付く。
さっき『趣味は仕事』と言ったが、
職場恋愛は対象外なので、
そうでないとするならば、趣味と言ったらそれは、強いて挙げると『インドア園芸』か。
私は今、5種類の植物を育てている。
① 多肉植物の『セダム』
② 『アイロステラ』という種のサボテン
③ 『黒松』のミニ盆栽
④ 『セントポーリア』というお花。そして、
⑤ 瓶入りの『苔』(苔テラリウムという)だ。
どれもミニサイズで、手のひらに乗るようなものばかり。
毎朝、家を出るときにセダムとサボテンをベランダに出し、日光浴させる。
黒松は、外で育てるのが良いのでずっとベランダだ。
セントポーリアと苔テラリウム、こちらはずっと室内。
そうして帰宅すると、セダムとサボテンはベランダから取り込んで、今日1日のことを思い出しながら彼らをお手入れするのだ。
それぞれの植物に、小さな変化が見られると写真を撮ってSNSにアップする。
そんなことを私は繰り返している。
だから私は差し当たって、趣味のサークルとして『園芸サークル』を調べてみることにした。
いや待て。
『園芸サークル』って、若い男いるのか?
イヤイヤ。
今はそんな選り好みをしているバヤイではない。
・・・そう思って、ネットで『園芸サークル』を片っ端から当たってみるものの、
出てくるのは麦わら帽子姿で、ジャージを履いて、シャベルとジョウロを持って花壇に植え込みを行う『園芸サークル』ばかり。
肉体労働派だ。
私のイメージしている、手のひらサイズの『インドア園芸』が好きで集まる集団は、なかなか出て来ない。
--早速、壁にぶち当たってしまった!
ちょうどいいサークルが、全然みつからない。
これは、むしろ『新しい趣味を始めなさい』という、神様からの啓示では?
うーん。行動力のない私に『新しい趣味』とは、一番ニガテな試練じゃ。
なかなか上手くいかないものだと観念し、今日もベランダからセダムとサボテンをせっせと取り込む。
ひとり暮らしになったことで、ベランダの日当たりが劇的に改善したのだ。
というか、部屋探しをする上で、植物のためを思い『日当たりのいい物件』に狙いを絞ったんだけどね。
ガラガラと、ベランダの窓を開けると、
昨日まで蕾だったサボテンに、真っ赤な花が咲いていた。
「うわっ!もう咲いている!」
誰もいない部屋で、思わず声を上げてしまうくらい、私にとってそれは驚きだった。
なにしろ、サボテンを買ってから今まで、一度も花をつけたことがなかったのだ。
それがひとり暮らしを始めたことで、急に日当たりが良くなったためか、思いがけない私へのご褒美。
興奮した私は、バチバチと写真を撮りまくる。
そして一番出来の良い写真をSNSにアップする。喜びの声と共に(笑)
--メッチャ嬉しい~!
この喜びを、誰かと共有したかった。
でもそんな男は、私にはいない。
高校の友達だって『インドア園芸』になんて、興味はないのだ。
だから、見ず知らずの他人でもいい。『イイネ』と言ってくれれば。
しばらく私は、自分でアップしたサボテンの赤い花に見惚れていた。
苦節4年。
人さまのSNSを見ると、みんないとも簡単にサボテンの花を咲かせているのだ。
私も、やっとその仲間入りができた。
ほんの小さいことだが、
それが、
私にとってものすごく大事なことだった。
ポコン
そうして、よく撮れた写真にうっとりしているさなか、SNSにリプライが来る。
《やっと、花がついたんですね。とっても綺麗。ひまわりさん、おめでとうございます!》
フォロワーの、葵さんからだった。
--分かってくれるのは、葵さんだけだよぉ~!!
ちなみにこの『ひまわりさん』というのは、SNS上の私のハンドルネーム。『緋真理』だから『ひまわり』、単純だけどね。
タイミングのよいリプライに、私は嬉しさを抑えきれず、思わずリプライを返す。
《苦節4年。やっと咲かせることができました!これも引っ越した恩恵ですかねっ!》
葵さんは『インドア園芸』に関しては、私よりずっと先輩だった。
思い返せば4年前、私が28才のとき、
初めてセダムを買って、どうやって育てたらいいのか迷っていたときのこと、
私は、この葵さんのアカウントをみつけて、見よう見まねで育てた。
サボテンが枯れそうになったときは、その写真UPしたら、葵さんが回復までのアドバイスをしてくれた。
とっても丁寧に教えてくれて、すごく頼りになるお姉さまだ。
その頃の私は、セダムやサボテン、セントポーリアなどのミニサイズの鉢植えばかり育てていたのだが、
葵さんが楽しそうに、ミニ盆栽や苔テラリウムの写真をアップしていたので、思わず私も買って、育てようと思ったのだ。
それくらい私にとって、葵さんは大事な人。何でも相談できる、インドア園芸仲間。
「葵さーん、ありがとねー」
私のサボテンの花に共感してくれた葵さんに感謝しつつ、葵さんのページを開く。
葵さんが上げていた今日の写真は、東京都千駄川区で開かれる『インドアプランツ コンテスト』のチラシ。
石鉢市場という普段は植物の市場が、この日だけ一般公開して展示即売する催しらしい。
京都に住む葵さんは、今度の土曜日に日帰りで東京に遊びに来て、この『インドアプランツ コンテスト』を見て、いいものがあれば買うとのことだった。
「東京の千駄川区かぁ・・・」
千駄川区というと、奈々子が結婚する前まで住んでいた土地だ。
私も何度か遊びに行ったことがあるので、千駄川区の地理に関しては、それなりに明るかった。
「葵さん、千駄川区は大丈夫かなぁ?」
そんな不要な心配をして、私は葵さんにSNSのDMを打つ。
『葵さん、こんばんは!突然ですがひまわりです。いつもありがとうございます!ところでインドアプランツコンテストへいらっしゃるとのこと。千駄川区ってけっこう交通が入り組んでいるんですけど、大丈夫でしょうか?もし不安があるようでしたら、いつものお礼に私がお手伝いしてもいいと思いご連絡しました。何かあれば、遠慮なく言ってくださいね』
と色々理由をつけたが、
正直言って私が、葵さんに会いたかった。
今日も私のサボテンの花に、リプライをくれた。
こんなに気の合う人はいない。
京都に住んでいる葵さん。
そんな葵さんと会うチャンスなんて、この日を逃したらもう来ないかもしれない。
しばらくして葵さんからDMが返ってきたが、
それは『なんとかなりそうなので、お手を煩わせるなんて気が引けます』というもの。
いつもの、なんとも奥ゆかしい葵さんだ。
でも私の方が、葵さんに会いたいのだ。
葵さんがイヤそうじゃなければ、ぜひ実行したい。
そうして私たちは、しばらくDMをやり取りして、
私が押し切って、
遂には来週の土曜日、9:00に東王田線の石鉢駅で待ち合わせをすることと、相成った。
待ち合わせをするにあたりSNSのDMでは何なので、私たちはトークアプリの連絡先を交換した。
トークアプリの連絡先を見ると、葵さんの名前は『矢坂 葵』とのこと。『葵さん』とは本名だったようだ。
私も改めて名前を連絡した。武市 緋真理。32才、独身。
こうして私は、来週の土曜日に葵さんと会えることを、
来る日も来る日も、楽しみに待ちわびた。
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