第2話 現代版おとぎ話 二の腕姫

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 むかーし むかし、令和元年ごろのお話。あるところ(東京都 国府市)に、夢佳(ゆめか)という名のお姫さま(自称)が住んでいました。  夢佳姫が29才になった頃、となり町に住む(かい)王子からプロポーズをされました。  夢佳姫が待ちに待ったプロポーズです。  2人は、4ヶ月後に結婚式を迎えることになりました。  これは、そんな幸せいっぱいな頃のお話。  ◆◆◆◆◆  ところが、夢佳姫の悲劇は突然やってきます。  結婚式場内のドレスショップへ、快王子と一緒にウェディングドレスの試着に訪れたときのこと。  ノースリーブの純白ドレスに袖を通した自分の姿を、鏡に写して見た夢佳姫は目を疑います。  二の腕。  これは、如何したこと?  10代の頃はもっと細かったはずの二の腕が、  パッツン パッツンに膨らんでいるではありませんか。 「よくお似合いですよ」  そう、ショップのアドバイザーは微笑みます。 ――あれ?イメージとちょっと違う  夢佳姫が、不安になって隣で見守る快王子を振り向きますが、快王子もにっこりと笑みを浮かべるのみ。 ――あれは、きっと気を使っている  そんな快王子の笑顔を見て急激に、結婚式に不安を抱いた夢佳姫なのでした。  ◆◆◆◆◆  そうして夢佳姫は『東の賢者』の元を訪れます。  自身の二の腕を細くするにはどうすればいいか、その方法を乞うためです。  『東の賢者』……その名も牧田(まきた)奈々子(ななこ)。東京都千駄川区に住む29才、独身。  奈々子は高校時代からの夢佳姫の親友で、当時から文芸部に所属して(入って)は密かにBLの小説を書きまくり、夢佳姫を笑わせてくれた大賢者さまです。  今でも彼女は、コミケでBLのサークルを立ち上げ、偏った性癖の同人誌を販売していると聞き及びます。  どうやらその世界では、ちょいと名の知れた人物にまでなっているようです。  この年になってもダーク×ガーリーの服装を好み、不思議系女子を演出。  コミケの後には、男子を含む集団と頻繁に打ち上げへ行っているようですが、  個人的なデートにまで発展することは、ほとんどないのだと言います。  『いやでも』と奈々子は口ごもり、  『デートには誘われるんだよ』とも奈々子は言うのです。  それではどうして、奈々子に彼氏ができないのでしょうか。  残念なことに彼女は、『超』がつくほどの面食いであることが、足を引っ張っているようでした。 「奈々子さま、奈々子さま。どうすれば、私の二の腕が細くなりますでしょうか?」  気を取り直し夢佳姫は、東の賢者に助けを求めます。 「夢佳姫、それはな。二の腕の脂肪を燃焼させることが肝要」  東の賢者は語ります。 「1.5Lのペットボトルを両手に持って、毎日腕を振ってみてはどうじゃ」 「はい、分かりました。私、やってみます」  その日から夢佳姫は、お風呂に入る前に毎日、両手に1.5Lのペットボトルを持って腕を振るトレーニングを続けました。  そろそろ、効果が出てきた頃か?  そう思って夢佳姫が、お風呂上りに鏡を見ると・・・ ――あれ?   なんだか肩回りが、前より逞しくなってきた気がする? 「そ、そうだったぁ!!!」  夢佳姫は忘れていたのでした。  『東の賢者』奈々子は、基本的にBL好きな道化師(おバカ)役で、真面目な相談を持ち掛ける相手ではなかったのです。  『二の腕が太い』という恥ずかしい内容の相談をするのに、いちばん恥部を話しやすい『東の賢者』に話を持ち掛けたのが、夢佳姫の間違いでした。  ◆◆◆◆◆  そうして夢佳姫は『西の賢者』の元を訪れます。  『西の賢者』……その名も武市(たけいち)緋真理(ひまり)。東京都玉川市に住む29才、独身。  緋真理は高校時代から冷静沈着、成績優秀の頼れるスレンダーな女性で、今ではバリバリのキャリアウーマンです。  ただし照れ屋で奥手な彼女の性格が祟り、最近はずっと男の子に縁がないご様子。  堅すぎる性格が玉にキズなのですが、真の意味で夢佳姫の頼れる親友です。 「緋真理さま、緋真理さま。どうすれば、私の二の腕が細くなりますでしょうか?」  夢佳姫は、西の賢者に助けを求めます。 「ペットボトル?そんなの無理に決まってるじゃん」  西の賢者は、呆れかえります。 「『部分痩せ』は無理だと言われてるよ。もう観念して夢佳、あなたは思い切ってダイエットするしかない!」 「やっぱり?」 「ダイエットはね『食事制限』と『運動』の両輪で回すから、どちらか一方だけじゃダメ。両方がんばるんだよ」 「どんなことをすれば?」 「『食事制限』は、今日から食べる量を半分にする。『運動』は、有酸素運動をして脂肪を燃焼させる」 「は、半分?け、ケーキは?ケーキは食べちゃ・・・」  夢佳姫は、昔からケーキが大好物なのです。 「ケーキ?食べていいと自分で思ってる?」 「やっぱ、ダメ?」 「あなたが、痩せたいならね」  その日から夢佳姫は、食事を野菜中心にして、食べる量を半分にしました。  運動も、スポーツジムに入会し、週に2回くらい足しげく通い詰めました。  そろそろ、効果が出てきた頃か?  そう思って夢佳姫が、お風呂上りに体重計に乗ると・・・  なんと!  体重が2kg減っているではありませんか。  さすが西の賢者。ただのカタブツではない。やはり頼りになる。  そう思い夢佳姫は、来る日も来る日も食事制限をして、スポーツジムに通い続けました。  これも、愛する快王子とステキな結婚式を挙げるため。  そう思うと、辛くても頑張れる気がしました。  そうしてしばらくした頃、フと鏡を見ると・・・  なんと!  顔にニキビができているではありませんか。  厳しいダイエットのストレスから、頬とアゴに2個所、ニキビができてしまったのです。  せっかく痩せても、肌荒れしたら元も子もありません。 「そ、そうだったぁ!!!」  夢佳姫は忘れていたのでした。  緋真理はそもそも痩せ体型なので、ダイエットなんて一度もやったことがなかったのでしょう。  だから西の賢者の教えてくれたダイエット法は机上の空論。きっと、ネットかどこかの受け売りだったようです。  ◆◆◆◆◆  そうして夢佳姫は『北の賢者』の元を訪れます。  『北の賢者』……その名も小峰(こみね)美月(みつき)。結婚して今は埼玉県に移住している29才、一児の母。(旧姓:坂倉(さかくら))  美月は高校時代からそのアイドルフェイスで男子にモテまくり、大学時代に捕まえた5人目の彼氏と2年の交際を経て、24才のときに結婚。  夫は外交官とのことで出張が多く、今は専業主婦として家を守っているという。現在2人目を妊娠中。  美月は高校の頃からモテていたので、夢佳・奈々子・緋真理のような地味系女子とは少しばかり波長が異なっていました。  だから相談するには一番適任だとは分かっていながら、ついつい最後になってしまったのです。 「美月さま、美月さま。どうすれば、私の二の腕が細くなりますでしょうか?」  夢佳姫は、北の賢者に助けを求めます。 「ニキビ?分かる!そう、できちゃうのよね!」  北の賢者は、夢佳姫に同意してくれました。  やっぱり最初から、美月に相談しておけばよかった! 「結婚前はダイエットして、ストレスたまるから、たまには自分にご褒美をあげなくっちゃ」 「ご褒美?」 「ある程度がんばったら、やっぱりご褒美は必要だよ。モチベ維持のため」 「け、ケーキは?」 「ケーキ?」 「ケーキは、食べていいのかな?」  そう問いかける夢佳姫をみつめ、北の賢者はにっこりと微笑みます。 「いいけど、でも砂糖少なめのスフレチーズケーキにしてね」  そうして北の賢者は、ダイエットとしての締めくくりに、エステサロンの必要性を説きます。  夢佳姫のように、ダイエットしたはいいけど、肌荒れしては元も子もないからです。  エステサロンには『ブライダルエステ』というプランがあり、実際に北の賢者もお世話になったそう。  その日のうちに夢佳姫は、エステサロンへ転がり込み、  『ブライダルエステ』の『上半身引き締め・肌質改善コース』を予約したのでした。  週に2度、スポーツジムに通って汗を流し、  また週に1度、痩身エステに通う日々。  夢佳姫は、これまでにないほど、自分への投資をしました。  そもそも挙式でお金がかかるのに、予算なんて全然オーバーです。  それでも、そこまでするのは、  愛しい快王子との結婚式を、ステキなものにするため。  そうして夢佳姫は、着々とその成果を上げていったのでした。
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