第2話 現代版おとぎ話 二の腕姫

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 夢佳姫はダイエットに、懸命に取り組みました。  順調に行くように見えたダイエットも、いつしか陰りが見え始めます。  ダイエットを始めてすぐに2kgの減量を果たしたものの、そこから先がなかなか進みません。  エステのお陰で肌荒れは改善したものの、体重はやっとこさ3kg減。  費やすのはお金ばかりではなく、ジムやエステに通う時間も消費されます。  結婚式が近づくにつれ、披露宴の食事内容や席決め、引き出物の選定や、ウェルカムムービー、2人の紹介ムービーの作成・編集にも追われ、夢佳姫のキャパもいっぱいいっぱい。  そんなとき、快王子が仕事の都合で合流できないことが続いたり、  夢佳姫との約束を忘れて、職場の面々と飲みに行ってしまったりすると、  呆れるというか、悲しくなるというか、夢佳姫もイライラしてしまうもの。  これは逆も然りで、快王子にとっては、  挙式直前の忙しくなってきたときに、  ジムやエステ通いに時間を費やし、お金もかなりの金額を費やす夢佳姫に、あまりいい気分は持っていませんでした。  それに加え、夢佳姫は最近怒りっぽくなってきたこともあり・・・  挙式が近づくにつれ、2人の間にケンカが増えてきます。  ケンカをした後、  決まって夢佳姫は寂しくなります。  このまま、快王子と結婚して、私は幸せになれるのだろうか?  結婚式のために努力をして、そんな努力が報われない。  イライラして、相手のことも思いやれない。  そんな自分がイヤになります。  夢佳姫は、今日も快王子とケンカをして家に帰る途中、星空を眺めながら北の賢者の言葉を思い出します。  『結婚前はストレスたまるから、ある程度がんばったら、やっぱりご褒美は必要だよ』 「ご褒美かぁ・・・」  『ケーキは食べていいけど、砂糖少なめのスフレチーズケーキにしてね』  スックと思い立ち、夢佳姫はカバンからスマホを取り出します。  そうして、いつもいちばん電話している人に、電話を掛け・・・ 「あ、もしもし、快くん?さっきはごめんね。でさ、今度の休みに、一緒にケーキ屋さん行かない?たまには息抜きで」  どうやら夢佳姫も、ひとつの峠を越せそうです。  ◆◆◆◆◆  そして結婚式の当日。  挙式には東の賢者も、西の賢者も、北の賢者も呼ばれました。  ダイエットの成果はというと、  体重はやっぱり3kg減止まり。  肝心の二の腕は、といえば・・・・  ここは、いちばん効果が現れにくいところ。  夢佳姫と東の賢者、西の賢者、北の賢者の4人は、結婚式の前々日に、独身最後の飲み会をしたのですが、  そのとき 「夢佳、ダイエットよくがんばったよねー!」  と3人の賢者は、労をねぎらうのですが当の本人は浮かない顔。  腕をさすって、  最後まで二の腕のことを気にしているようでした。 「ここは、最後の魔法をかけなくっちゃね」  結婚式場の待合室で、北の賢者が2人に相談を持ち掛けます。 「なにそれ?魔法って」  東の賢者も西の賢者も、北の賢者の提案に耳を傾けます。 「ねぇ、聞いて」  そうして北の賢者が2人に、こっそり耳打ちをします。 「誰か、新郎の快さんを連れてきてくれない?」  ◆◆◆◆◆  新婦の控室。  夢佳姫はノースリーブのウェディングドレスに身を包み、スタイリストさんにヘアアレンジをしてもらっていました。  そうして最後に、メイクを整えてもらいます。  コンコン  ノックの音が響くドアを、夢佳姫が振り返ると、  遠慮しがちに、新郎の快王子が顔を覗かせました。 「入っていい?」 「いいよ。ほら、こんなんなっちゃいました」  派手に巻き上げられたヘアスタイルと、いつもより大柄なメイクをした夢佳姫が、はにかんで笑いかけます。 「うわー」  ドアを後ろ手に閉めて、快王子が夢佳姫の脇まで歩み寄ります。 「あれぇ?夢佳ってこんなに細かったっけ?」 「え?」 「衣装合わせで見たときより、今日はずいぶんドレス、着こなせてるんじゃない?」 「え、そうかな?」  夢佳姫がスタイリストさんに視線を送ると、  スタイリストさんも、ニッコリと微笑みかけてくれました。 「夢佳・・・」 「え?」  夢佳姫が快王子に呼ばれ、振り返ります。 「こんなにキレイな女性(ひと)と結婚できるなんて、オレは幸せ者だ」 「快、くん?」 「夢佳、幸せになろう?」 「うん」 「夢佳」 「快くん・・・大好き」  ◆◆◆◆◆  こうして、2人は無事に結婚式を挙げ、  その後も幸せに、暮らし続けたのだとさ。  めでたし、めでたし -----  次回は西の賢者、緋真理のお話です。お楽しみに(笑)
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