第3話 秋の味覚 街コン体験記

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 今月また1人、友達が結婚した。  思い返せば5年前。  高校時代からの仲良し4人組。  そのうち美月(みつき)が24才で結婚したのが皮きりだった。  旦那は外交官だそうだ。  美月は昔からルックスがよかったので、高校の時分からずいぶんモテていた。  だから早くに結婚することは想定内だったし、  まだ24才だったら、私だってのんびり構えていた。  などと、ぼんやりしているうちに、  はたと気づくと、今や29才。  『20代』と名乗れるのは、あと1年もなくなった。  そんなときに限ってだ。  ゆるゆるとした天然系の夢佳(ゆめか)が、結婚することになったのは。  しかもお相手は22才のイケメンボーイという。  7つも年下じゃん!どうやって手籠めにした?  正直に言って、口には出したくないが、なんともうらやましい。  夢佳が年下ボーイと結婚。  いや、これは  さすがに私だって焦る。  私が、実家暮らしだから彼氏ができないのか?  ひとり暮らしじゃないと、男から敬遠されてしまうのか?  ちょっとくらい隙を見せないと、男は寄ってこないのか?  とにかく、彼氏だ。  彼氏ができないことには、結婚の『け』の字もない。  その頃の私は、  友達の結婚を機に  『どうやって彼氏を作ろう?』  そんなことばっかりを、  躍起になって考えていた。  ◆◆◆◆◆   「もしもし、奈々子(ななこ)?」  私の、最後の盟友に電話する。  高校時代の仲良し4人組のうち、残っているのは私と奈々子。この2人だけだ。 「どうしたの?緋真理(ひまり)から電話してくるなんて、珍しいじゃん」  奈々子は同い年。現在29才。彼氏はいない。  コミケで同好の士を集め、BLの同人誌販売に没頭する趣味の人だ。  勝負服にダーク×ガーリーなぞ小娘の着る服を選び、  若作りをして不思議系女子を演じ、  コミケが終わった後には仲間の男子集団と打ち上げへ、よく行っているそうだ。  奈々子も必死なのだろうが、  それでも彼氏ができないのだから、  私と2人、お互いに支え合わなければいけない。  だから私は奈々子と連絡を取った。 「奈々子、月末の土曜日、一緒に街コンへ行かない?」 「街コン?」 「そう。『焼き芋屋台など縁日散歩コース』。今なら限定で、男子5200円、女子600円だから」 「へぇ、緋真理からそういうの誘ってくるなんて、珍しいんじゃない?」 「まぁ、あれよ。夢佳も結婚しちゃったし、私たちもそろそろ本気出さなきゃ」  そうだ、私の決意は固いのだ。 「そうかそうか、それは良い傾向じゃ。それならばよかろう。ワタシもつき合って進ぜよう!」  こうして私と奈々子は、月末に開催される街コンへと出向き、  『彼氏探しの旅路』へと、出かけることにした。  ◆◆◆◆◆  今回、私たちが参加する街コンは『焼き芋屋台など縁日散歩コース』。  東王田線の不動尊駅前に集合し、街歩きをしながら歴史あるお寺の縁日を巡る体験型街コンだ。  私と奈々子は、駅の改札で待ち合わせ、その後2人で街コンの集合場所へと向かう。  集合場所に着くと、身分証明書を確認された。  次いでプロフィールシートを記入する。  名前、年齢、職業、趣味など、会話のネタとなるようなものを記入し、お相手の方と会話するときに利用するのだ。  そうして、  主催者の合図により街コンはスタートする。  参加者は、駅から不動尊までの道のりを散策する。  同性同士で2人ずつのペアを作り、散策している間は男女2対2のグループで行動するのだ。  まずはこの4名で仲良くなる。  このグループは時間制で交代し、次々と男性が入れ替わり、不動尊に着く頃には、最終的にすべての男性と一度は会話できるという寸法だ。  当然のように私は、最初に奈々子とペアを組んだ。  そして次から次に訪れる、男性への対処に私は苦労した。  だって、話すことがない。  その点奈々子は、独自の不思議系キャラを持っているので、突っ込みどころが満載だ。  奈々子がボケると、私がツッコむ。  高校時代から何度も繰り返された、年季の入ったそのトーク術でなんとか乗り切れた。  これも奈々子のお陰だ。ずいぶんと助けられた。  この後の予定は、不動尊の縁日に着くとフリータイムになる。  男性と直接交渉して、連絡先を引き出すのだ。  だから今の2対2のグループトークで、目ぼしい男に見当をつけておく必要がある。  そう思い周囲を見回すと、平均より上のイケメンが2~3人いる。  その他は、パッとしないフツメンが大多数。  前後左右を見ると、周囲の女子もやはり、イケメンを狙っているようだ。  ・・・これは、競争が激しいことが予想される。  その『イケメン狙い』の集団に入って、私は自分を売り込むことができるだろうか?  女子集団の中に入り、大して目立たない女の子(わたし)が王子様に見出されるなんて、それはおとぎ話の中だけの話。  最初から分が悪い戦いに臨むよりも、着実に結果を残す戦法の方が有効かもしれない。  そう思い私は、顔基準で選ぶのはやめて、性格基準に切り替える。  いいのだ、イケメンでなくとも。  そこそこの顔で、そこそこの経済力を持ち、家庭を築いてくれる優しくて真面目な男性(ひと)であれば。  燃えるような恋は、もしかしたらできないかもしれない。  でも、  恋愛と、結婚は別だって言うでしょ?  そうして私は、1人の男性に目星をつけた。  その人の名は松永(まつなが) 明弘(あきひろ)。フツメンだが33才の銀行員。  趣味は『読書・映画鑑賞』。無難すぎて私とも気が合いそう。  私は、フリータイムになったら明弘さんの隣に行こうと、その時を虎視眈々と狙っていた。
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