第3話 秋の味覚 街コン体験記

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 街コンの後半は、不動尊の縁日を巡るフリータイムだ。  主催者の合図と共に、参加者がぞろぞろと縁日の屋台へと足を運ぶ。  私はここで奈々子と別れ、別行動に移った。  そうしてまずは、2~3人いたはずのイケメンの行方を探す。  いた。  女子がわらわらと集団で群がっている。  その女子集団の真ん中に、イケメンはいた。 --よしっ!  私は、自分の『先見の明』を褒め称える。  ナイス読み。  あそこに加わるのは、時間を浪費するだけ。  私は明弘さんを、目指すのだ。  すると、  金魚すくいの屋台の前で、所在なさげに金魚を眺める明弘さんの姿をみつけた。 「こんにちはー」  私は、笑顔で明弘さんに声をかける。 「あぁ!・・・えっと」  私は自分のプロフィールシートを胸の前に掲げる。 「武市 緋真理ですー」  すると、明弘さんの表情が明るくなった。 「あぁ!あの、面白い()と一緒にいた!」 「そうです。金魚がお好きなんですかぁ?」  そうして私は、少し可愛い子ぶって、  明弘さんの隣にすり寄り、金魚をのぞき込んだ。  ◆◆◆◆◆  こうして無事に明弘さんの連絡先をGetした私は、  第二、第三の恋人候補者を探して、縁日をさまよう。  しばらく行くと、またわらわらとした女子集団に出くわした。  やはりまだ、ずっとイケメンの周りはこんな状態なのだろう。  そう思い避けて通ろうかと思ったら・・・  なんと!  集団の中心には、例のイケメンと、奈々子が楽しげにおしゃべりしているではないか? --な、奈々子?  そう言えば、聞いたことがある。  奈々子に彼氏ができないのは、『超』がつくほど面食いだからである、と。  奈々子の、イケメンに対する執着力は末恐ろしい。  その執着力と行動力におののきながら、私は知らない人のふりをして別のターゲットを探し歩いた。  ◆◆◆◆◆  そうして私は、3人の性格よさげなフツメンと連絡先を交換した。  初めての街コンの割には、3人の恋人候補と出会えるなんて、これは効率的?  そろそろフリータイムも終わる。  私はご満悦で屋台をブラブラしていると、後ろから奈々子が声をかけてきた。 「どうだい、緋真理。出来は上々?」 「あ、奈々子!あなたこそ!」  イケメンとは、どうなったのだろう? 「ところで話題の『焼き芋の屋台』に行きたかったんだけど、どこにあった?」  と奈々子が問うので、  私たちは、街コンの締めくくりに『焼き芋の屋台』を探し歩く。  しばらく歩くと『焼き芋の屋台』はみつかって、  よく見るとそこには、焼き芋を選んでいる明弘さんの姿があった。 「あ、明弘さん!またお会いできましたね」  運命的な出会いを装って私は、にこやかに明弘さんの隣に陣取る。  そんな私の様子を、  後方から奈々子がニヤニヤしながらこっちを見ている。  ・・・うう、やりにくい  友達の前で、男に媚び売る自分の姿は、どれだけ滑稽に見えているのだろうか?  普段から私は、奈々子のボケに対して厳しくツッコむ役回りをしているので、  逆にツッコまれる立場になると、弱いのだ。 「おやおや、ご両人。この屋台の『芋占い』はご存じか?」  やはりご満悦な表情で、後ろから奈々子が声をかけてきた。  わざわざ『ご両人』なんて言っているので、奈々子のことだ、きっと何か変なことを考えているはずだ。 「『芋占い』って?」  とりあえず奈々子の話題に乗ってみる。  奈々子は、得意げな顔で『芋占い』について説明を始める。  屋台で売っている3種類の焼き芋を選ぶと、その芋の種類で、選んだ人の性格が分かるのだという。  お芋は『紅あずま』『シルクスイート』『安納芋』の3種類。  私は『紅あずま』を、  明弘さんは『シルクスイート』を、  奈々子は『安納芋』を選んだ。 「まず『紅あずま』を選んだ緋真理は・・・」  奈々子はスマホで検索する素振りをして、診断結果を発表する。 「粉っぽいホクホク系の『紅あずま』は『規則正しく勉強熱心な平和主義者』と出ておる」  意外と当たっていることを言う。  それは奈々子は、私がどんな性格なのか知っていて当然だろう。 「そしてしっとり系の『シルクスイート』を選んだ明弘さんは『好奇心旺盛で頼もしい目標達成の持ち主』」 「おぉぉ~!」  私は、拍手して盛り上げる。  奈々子が気を遣って、明弘さんにはいいことを言ってあげたのだろう。 「最後に、ねっとり系の『安納芋』を選んだ私は『気遣いのできる縁の下の力持ち』と出てます」 「いや、それウソじゃん」  思わず出た私のツッコミに、明弘さんも笑う。 「そうして『紅あずま』を選んだ緋真理と、『シルクスイート』を選んだ明弘さんの相性は・・・100%ピッタシ抜群と出ております!」  結局、それが言いたかったのね。  奈々子なりに気を遣ったのか。  『気遣いのできる縁の下の力持ち』だからね(笑)  ◆◆◆◆◆  そうこうしているうちに街コンも終了時間を迎え、不動尊駅前まで戻り解散となる。  解散する前に『連絡先交換タイム』という時間を設けられ、結局私は13人の男性と連絡先を交換した。  あまりにも連絡先が増えたので、  もう誰がどの連絡先なのか判別不能になり、  結局、明弘さん以外の連絡先は使い物にならなくなってしまった。  でも、いいのだ。  本命がひとり、残っていれば。私は。  こうして私と奈々子の、奇天烈な街コンは幕を閉じる。  ◆◆◆◆◆  その後日談。  私と明弘さんは、トークアプリで何度かやりとりを重ね、  一度、ランチデートをした。  なかなか、いい雰囲気になった。  しかし、その後は・・・  お互いにトークアプリの頻度が減ってきて、なんだか疎遠になって、  結局、自然消滅した。  やはり、好きでもない相手と関係を続けるのは、相応の努力を続けなければいけない。  その努力がおっくうになる相手とは、長続きしない。  相手を『好き』と思えることが大事だと、改めて思った。  それは、私にとって高い壁だった。  私は奈々子にも、その後の恋の行方を電話で聞いてみた。  驚いたことに奈々子は、街コンでは誰とも連絡先を交換しなかったと言う。 「あのイケメンとは、連絡先交換しなかったの?」  と聞くが、 「イケメンでも一般人だと、話が合わないんだよね・・・」  などとほざく始末。  奈々子に言わせると、  『コアな話ができるオタクで、なおかつ顔がめちゃイケメン』  が理想なのだという。  そんな人、存在するのか?  そう思い、私より奈々子の方が心配になってきたが、  当の奈々子は、男には不自由していないという。  なにそれ、どういうこと?  どうやら奈々子には、一緒に飲みに行くオタク友達がたくさんいるので、  ひとり身が寂しくて仕方なくなったとき、なぐさめてもらう相手には事欠かないらしい。  なんだそれ?  私の知らない世界。  もしかして、ねっとりとした関係?  そうだ『安納芋』だ。  そう言えば奈々子は、占いでは、ねっとりとした『安納芋』なのであった。  そう思うと私は、  粉っぽいホクホク系の『紅あずま』で、よかったと思った。  私は電話越しに、 「子供だけは作らないでね」と、  奈々子に余計なアドバイスだけして、そっと受話器(スマホ)を置いた。         - 終 - -----  次回は、そんな奈々子のお話です。お楽しみに(笑)
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