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きっと今日もいつもと何ら変わりない日になるのだろう。
そうやって一日が始まった。
やっぱり今日も何もないあっという間の一日だった。
そうやって一日が終わる。
いつもと同じ帰路に着き、一人のんびり歩を進める。
辺りはもう真っ暗で、街灯がなかったら闇に包まれるのではないかと思うほどだ。
何気なく空を見上げると、まあるい月が白い光を身に纏い、美しく輝いていた。
(……あぁ、そういえばあの日も満月だったな。)
ふと、そう思う。
君と出会ったのも、こんななんてことない夜だった。
そして、僕は夜空に浮かぶ月に見惚れていた。
そんな僕の後ろから、柔らかい声が聞こえてきたんだ。
「……月、綺麗ですね。」
急に話しかけられ驚いたが、それよりも彼女の美しさに目を奪われてしまった。
「……あっ、はい。凄く綺麗です。」
なんてとりとめのない返事をしてしまう。
優しく微笑む君の周りは、時間がゆっくり流れているようなそんな空気で満ちていた。
僕の目に映る君は本当に綺麗で、でもどこか儚さを纏っていた。
月の光を浴びた君の横顔はすっと消えてしまいそうで。
そして、僕はそんな君に一目惚れしてしまったのだ。
無論、彼女と会うことはその日が最初で最後だった。
見上げた月に、君の姿が重なる。
(……君は今何をしているのだろうか。)
あの日と同じように空を見上げているのだろうか。
同じ空が今見えるなら、僕はただそれだけでいい。
「……今日も月が綺麗ですね。」
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