第3章 馴れ初め

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 私、何かおかしな事を言ってしまっただろうか。 「百年前って、ミエラ、まだ生まれてないでしょう?」 「しかも死んじゃったって、ミエラ、こうやって生きてるじゃん」 「えっと……」  そうか、そこから説明しないと駄目だったらしい。頭の中で順序建てて、話を繋いでいく。 「私たち、現世でこうして生まれる前から……前世からずっと魔導師だったんです。覚えてるのが百年前からで……。私とクローディオは前世から恋人同士だったんです。でも、敵が現れて、スティアが大変な事になっちゃって……」 「百年前のスティアの大災害……か」 「それで、どうしたの?」  キャサリンに優しく促され、頷いてみせる。 「敵を倒すって決めてから魔導師みんなで旅に出たんですけど、その途中でクローディオにプロポーズされて、結婚を誓い合いました。その次の日、敵と戦う事になって。結局、敵を倒せたのは良いんですけど……私……」  呪いの事までは言わなくても良いだろうか。普通の人間であるこの人たちに何処まで話して良いかも分からないし、仕方が無い。 「敵の最期の攻撃に倒れちゃって……クローディオの腕の中で命を落としました」  カノンとリエルの事を思い出すと、クラウの気持ちを考えると辛くなってしまう。  次の言葉がなかなか出てこず、また俯いてしまった。三人とも急かす事も無く、私を待ってくれている。  次の言葉を探し出し、口を開いてみる。 「それから私がまた生まれるまで……百年間もクローディオはその事をずっと後悔してて、命を削ってまでずっと私を探してて……。だから水の魔導師は、百年間、あんなにも短命だったんです」 「そんな……」  ルーナの口から小さく漏れた。  キャサリンも頭を小さく横に振り、唇を噛む。ヒルダも頭を抱えてしまった。 「ごめんなさい、私……」 「良いの。話を続けて?」 「はい……。やっと百年後、私が生まれて、お互い魔導師になって、再会出来たんです。また恋をして、そこから先は……ご想像にお任せします」  無かった事にされている過去──ううん、違う。未来の出来事を話しても仕方が無い。苦笑いをして話を締め括った。 「……なんか分かった気がした。今までクローディオが社交界に全然興味を示さなかった理由」  ヒルダは頬を右手で拭い、溜め息を吐く。 「ずっとミエラしか見えてなかったんだもん。そりゃ、他のご令嬢なんてどうでも良いよね」 「あの子、『今』を見てない感じはしてたの。明後日の方を見てるって言うのか、なんて言うか。心此処に在らずで、本当にぼんやりしてる事が多かった。……そういう事だったの」  何かを納得し、キャサリンは私から顔を背ける。 「そうとは知らないで、貴女たちには残酷な事をしちゃった……。ごめんなさいね」  車窓が映るアイスブルーの瞳から、一粒の涙が零れた。 「お母様が謝らないで下さい! 謝らなきゃいけないのは私の方ですから! ご令息に辛い思いをさせてしまって……ごめんなさい……」 「辛かったのは貴女も一緒でしょう? 謝らないで。……それより」  キャサリンは私の両手を取り、悲しそうに微笑んだ 「あの子と出逢ってくれて、ありがとう」  胸が一気に締め付けられる。我慢していた涙が溢れ出す。 「うぅ……」  情けない声まで出てしまって。でも止められない。 「ミエラ嬢~……!」  横から飛び付いてきたルーナと一緒に号泣した。 ―――――――― 「事実は小説よりも奇なり……か」  落ち着いた頃合を見計らい、ヒルダは口を開いた。車窓を見詰め、ほうっと耽っている。 「よく言ったもんだよね。私も魔導師様の事はちゃんと勉強したから、出来事……史実は知ってる。でも、その人たちが何を思って、どう行動したのかまでは知らなかった。そこまで考えないでしょ、普通は、さ」  ヒルダに同調し、ルーナもうんうんと頷く。 「こんな素直な子、なかなか居ないとか、今生の別れじゃないとか、知ったかぶりして大口叩いちゃった。二人の方がよっぽど分かってるじゃん。……ミエラ、ごめんね。クローディオにも後で謝っておかなくちゃ」  しょんぼりするヒルダに、ぶんぶんと大きく首を振ってみせた。 「あの子ったら、何も言わないんだもの。ただ、好きな人、好きな人ばっかりで。言ってくれたら対処の仕方だってあったのに」 「言えないよ。私だったら絶対言えない。こんなスケールの大きくて現実離れしてる話、家族なら余計に、ね」  キャサリンとヒルダは揃って小さな溜め息を吐いてみせる。それも束の間、ヒルダは私を見て微笑んだ。 「ミエラ、教えてくれてありがとね」 「いえ……」  私は何もしていない。ただ、馴れ初めを聞かれたから、そのまま話しただけだ。  俯いたまま、口を結ぶ。 「……もうそろそろご到着です。お支度をお願い致します」  申し訳なさそうに、ルーナは告げる。  外を見てみると、馬車は曲がり角を曲がり、視界には収まりきらない程広大な庭のある屋敷へと差し掛かっていた。  此処が私が八ヶ月間生活する事になる別邸なのだろう。
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