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「うっ………」
眩しい光に刺激され、瞼をゆっくり開けると、視界に人影が見えたので、藤次はホッと顔を緩める。
「あや、ね……やっ、と、会え、た……」
そう言って、もっとよく見ようと瞳に力を入れたが、そこにいたのは……
「藤次!??!!藤次こっちや!!!しっかりしよし!!!!!」
「藤次!!?!!長山さん、反応あったんですか?!!!」
「うん!!!今、譫言で絢音て聞こえた!!!!藤次!!ホラッ!気をしっかり持ち!!」
「…………え………」
朧げながら広がった世界は、白い花で覆われたそこでもなければ三途の川でもなく、見知らぬ白い天井と、必死に自分に何かを呼びかける、姉の恵理子と、親友の真嗣。
耳をつくのは、不規則な電子音と、酸素ボンベらしき空気の循環する音。
身体中、至る所に管が繋がれてて、まるで今際の際の藤太のようだとぼんやり思っていると…
「棗さん、分かりますか?病院ですよ?棗さん。」
「え………」
声のした方を向くと、そこには絢音の主治医の京橋がいて、ここは花藤病院なのかと認識した瞬間、カッと、身体に熱が疾る。
「せんせい……俺、いきてんですか?!!?なんで……なんで病院に!!!?俺、確かに家の寝室で絢音の薬を一気に呷って、死んだ」
「棗さん、落ち着いて。大丈夫ですよ。発見が早かったので、直ぐに胃洗浄で救命できました。取り敢えずはICUで経過を見て、それによって今後の治療方針を決めたいと思います。…よろしいですね?長山さん。」
「は、はい。直ぐに必要なもの揃えますので、宜しゅうお頼申します。あの、それで…職場については…」
「ああ、それなら僕が代理人を受任します。何せ現職検察官の心中未遂ですからね。今は静かですが、その内報道陣が来るでしょうから…まあ、取り敢えずは僕に任せて、藤次は何も考えず安静にしてな。」
「は?」
「ん?」
「未遂て、今言うたな。せやったら、絢音は今どうしとんや……真嗣……」
「……………」
今まで誰も話題にしてこなかった愛する女の名前を自分が口にした瞬間、部屋の空気がしんと静まる。
暫時の重い沈黙の後、真嗣が口を開く。
「……藤次の家のお隣さんの、寺沢さんや救急隊の人が必死になって救命措置をしてくれたけど、病院到着の…丁度1週間前の9時、死亡確認。僕が…聞いた。」
「……………なるほど。俺がまんまと生き延びたから、未遂言う、意味か。」
「藤次…」
「とーちゃん…」
「………すまん。真嗣、姉ちゃん。暫く、1人にしてくれんか?先生も。もう、おかしな気ぃは起こさんよって……頼んます。」
「………分かりました。鎮静剤を用意しますので、今日はゆっくりなさって下さい。長山さんは、ICUの関係者から、必要な手続きの説明を聞かれてお帰りください。谷原さんは、具体的なマスコミ対策をしたいので、病院長室までお願いできますか?」
「はい…」
「分かりました。」
「ん。なら棗さん。看護師が来ましたら、適切に処置を受けて下さいね。」
「はい。お世話んなります…」
「うん…」
そうして暫くの後、看護師が処置をして出ていくのを確認すると、藤次は抑えていたものを一気に吐き出すように、泣き崩れた。
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