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「わぁ〜!かっわい〜!!」
「あう?」
……週末。
京都郊外にある真嗣のマンションに、藤次は家族を連れて赴き、彼の元妻嘉代子と、娘の可奈子と顔を合わせた。
「ママぁ、見て見て?オジさんの赤ちゃん、とっても可愛い!」
「ホントね。けど、良かったじゃない棗君。奥さんの遺伝子が有能で。」
「へぇへ。姐さんの毒舌も、今日の事考えたら甘んじて頂戴するわ。」
「ははは…」
目の前でバチバチと火花を散らす藤次と嘉代子に辟易しながら、真嗣は、やはり苦笑している絢音の元に行く。
「じゃあ絢音さん、そろそろ…」
「あ、はい。…ほーら藤太。谷原の小父様よ〜」
「あー…」
あやしながら、自分の腕から真嗣の腕に藤太を抱かせると、彼は慣れた手つきで腕の中の藤太をあやすと、彼は楽しそうにはしゃぎだす。
「よしよし。嘉代子さんじゃないけど、ホント藤次の子とは思えない良い子だね。ほーら。」
真嗣がバアと笑って見せると、藤太は益々はしゃぐので、藤次は忽ち不機嫌になる。
「なんやねん。ちょお早よ父親業やっとっただけやろ!!ワシかてなぁ!」
「ち、ちょっと藤次!!」
そう言って自分から藤太を取り上げようとする藤次の首根っこを、問答無用に嘉代子が掴む。
「か、嘉代子さん?!」
「な、何すんねん姐さん!?」
瞬く2人に、嘉代子は盛大にため息をつく。
「あのねぇ、あなたこれから、私達に子供預けて、奥さんと2人で一泊デートに行くんでしょ?いつまでも子供子供言ってないで、奥さん相手してあげなさい!!」
言って嘉代子は、部屋の隅で縮こまっていた絢音に藤次を突きつける。
「あ、あの…」
怯える絢音に、嘉代子はニコリと笑う。
「楽しみにしてたんでしょ?顔に書いてある。可愛い赤ちゃんは、私達が責任持って面倒見させてもらうから、早く行ってらっしゃい。」
「あ、はい…」
「姐さん…」
「ほら、早く!」
そう言って2人を見送る嘉代子に、真嗣がニコニコと笑っているので、忽ち彼女は赤面する。
「な、何よ。」
「いやあ、存外2人とも、似たもの同士かなぁって。」
「なっ!?」
真っ赤になる母と、ニコニコ笑う父を不思議そうに見つめながら、可奈子は揺籠に移された藤太を見やる。
「オトナって変なの。ね、藤太君。」
「ぶ?」
目をクリクリさせる藤太を見つめながら、可奈子は乳繰り合う両親をよそに、藤太の子守りを始めたのでした。
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