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「お、お待たせ…」
「あ、う、う…ん。」
…所変わって、嵐山のレンタル着物ショップ。
お互いペアにしようと、藍色の着物にしたのだが、自分と違い白いレースのショールを纏い、綺麗に髪を纏めて飾りをつけた美しい絢音に、藤次はドキドキと胸を鳴らす。
「お、おかしい?」
「あ、ああいや!ぜ、ぜんっぜん!!!めっちゃ…可愛い…」
「あ…」
段々声が小さくなり、真っ赤な顔で俯く藤次につられて赤くなる絢音。
何せ久しぶりの二人きり…夫婦水入らずだ。
否が応でも意識してしまう。
もじもじしていると、藤次の無骨な手が目の前に差し出される。
「ほな、行こか。食べ歩き。彼氏と行くの、夢やったんやろ?」
「う、うん!」
頷き、手を握り締めて、二人は仲良く肩を並べて、人混みごった返す嵐山の街並みへと向かった。
*
…嵐山で食べ歩き。
藤次にとっては、学生時代に何度も行っていた、有体なデートプランだったが、隣で目を輝かせながら、団子や飴を見つけては、自分と半分こして楽しむ絢音を見ていると、不思議と気持ちも上がって来て、二人は時間も忘れて、かつての彼氏彼女の時間を楽しんだ。
「絢音、お待たせ!ようやっと買えた……って。」
それは、ほんの油断だった。
慣れない下駄で脚を痛めた絢音を木陰で待たせて、少し遠くの…自分がここに来たら必ず寄っていた店に訪れ戻ってみたら、そこに絢音がおらず、藤次はポトリと、手にしていた甘味を落とす。
「絢音…おいっ!絢音どこやっ!!」
夕闇近くなり、人もまばらな通りを必死になって探し回る。
何故、不慣れな土地で彼女を一人にした。
何故、疲れたなら早めに宿へ行こうと気遣えなかった。
阿呆や、阿呆や…
自分をひたすら責めながら、メインストリートから細い路地まで必死に探す。
世界って、こんなに広かったか?
いや…
彼女がいない世界が、こんなに辛くて、不安な…脆弱なものなのか?
分からない。
分からない。
ただ、もう…耐えられない。
独りは、嫌や。
ーー万策尽きて、一度冷静になろうと別れた場所に戻ってみたら…
「あ…」
「藤次さん?どこまで行ってたの?私心配して…」
ーー一瞬だった。
心配そうな顔をしていた彼女の白い頬を、初めて打ったのは。
「と、藤次…」
「阿呆!ここおれて言うたやろ!何で離れんにゃ!俺が、俺がどんなに心配したか!!」
「だ、だって、おばあちゃんが足を痛めて、困ってたから、どうしてもほっとけなくて、タクシー拾える通りまで送って行くって、メールー…」
「えっ……」
段々涙で顔を濡らしていく絢音を見てるうちに、頭にのぼっていた血は下がり、藤次はゆっくりスマホのメールを確認すると、確かに通知が来ており、忽ち青ざめ、彼女を抱き締める。
「ごめん!!ごめん!!手ぇ上げて、怒鳴ってごめん!!何遍でも謝る!!土下座でも何でもする!行きたいとこ全部付き合う!!せやから、せやから俺を、嫌わんでくれ……後生や…」
「藤次さん…」
息が苦しくなるくらい強く抱きしめられ、カタカタと震える藤次に戸惑いながらも、絢音は優しく囁く。
「顔、見せて?」
「嫌や。こない情けない顔晒して、嫌われとうない。」
「もう。一体何回言わせるの?もう私、こんな事ぐらいであなたを嫌いになるなんて、あり得ないわって。」
「絢音…」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて見つめると、片頬を赤く腫らし、涙を浮かべながらも笑う、愛しい愛しい、最愛の人…
「好きよ。藤次さん…」
「あ……」
ーー我ながら単純だと、心で嗤った。
けど、彼女が自分に向かって笑ってくれるなら、
彼女が自分に向かって好きと言ってくれるなら、
最早どんな罪さえも、犯して構わないーー
「…藤次、さん。もう……あぁ……」
月明かりの差し込む瀟洒な和室の布団の上で乱れる自分の腰を手で固定して、無我夢中に、己の花芯から溢れる蜜を舐める藤次に、絢音は待ったをかけるかのように頭を押すが、藤次は益々強く吸い上げるので、絢音は切なげに声を上げる。
どれだけ貪っても、どれだけ彼女がやめてほしいと懇願してきても、藤次には足りなかった。
もっと、もっと彼女…棗絢音と言う女が欲しい。
心も肉体も、声も、髪の毛の一本も、全てが愛おしく、誰にも奪われたくない。欲しい。
最早彼女のいない世界、彼女を愛せない、抱けない世界など、藤次にはあり得ない、生きていても仕方ないとさえ思うほど、無意味な事になっていた。
酸素を求めてだらしなく開いた口にキスをして、片脚を持ち上げ更に密着して性器を擦り合わせて睦合う。
自分が穿つ度に、背中に回されたか細い指がキュッとしなり、爪が肉に食い込み、小さな痛みが走る。
「可愛い……もっと気持ちようなって、付けて?痕……」
「と、藤次、さん!……あっ!!」
そうしてどんどん上り詰め、いよいよ吐精感が増して来た瞬間だった。
口紅の取れた絢音の口が、妖しく動いたのは。
「もう、殺して…藤次…」
「っ!!」
ーーそれは、初めて結ばれた道後の夜以来の、呼び捨て。
愛おしい気持ちが一気に思い出と溢れて、藤次は絢音を強く抱き締める。
「そんなん、出来るわけないやろ…阿呆…」
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