月無き夜の逢瀬

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じゃりっ、という響きが足元から伝わり来る。 それは、玉砂利を踏み締めた感触だった。 目が醒めたような思いを抱きつつ、怖々と左右へ視線を巡らす。 其処は、神社の境内だった。 鬱蒼たる木立に囲まれた境内には私以外誰一人として居なかった。 高く伸びた樹々は遍く頭上を覆っていて、濃紺へと染まりつつある筈の夜空を仰ぎ見ることは出来なかった。 ひやりとした、そして湿り気を帯びた空気に境内は満たされていて、それは夜が始まりつつあることを嫌が応にも()らせるものだった。 正面に拝殿が見えた。 濃紺に染まりつつある景色の中にて拝殿は彩りを失い、その姿は無表情な薄灰色に染め上げられつつあった。 掲げられた注連縄、そして紙垂は揺らぎもせず、まるで時が凍て付いているかのように思えてしまった。 拝殿の斜手前に、小振りの「やぐら」が在るのが判った。 角材を組み合わせて作られた「やぐら」は人の背丈よりやや高い程度で、その奥行きは意外に長く、例えるならば通路のような姿だった。 ちりん、と涼やかな音が響き渡る。 その音は、「やぐら」のほうから響き出てきたようだった。 私は引き寄せられるかのようにして「やぐら」の方へと歩みを進める。 じゃりっ、じゃりっと玉砂利を踏み締める音が場違いに思えるほどに境内へと響き渡った。 程無くして、私は「やぐら」の前へと辿り着く。 遠目からはよく判らなかったが、「やぐら」の中には数多の風鈴が掛けられていた。 通路の入口、そして出口と思しき部分を除いたところに夥しい数の風鈴が吊されている。 それらは青や赤、そして黄の朝顔をあしらった透明で小振りな硝子の風鈴だった。 私は誘われるかのようにして風鈴の通路へと足を踏み入れる。
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