番外編2.彼はココア男子

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「それとも、俺と水族館デートしてくれます?」 ここのところ、ずっと一緒に残業続きなのを心配してくれたんだろう。 からかうように笑いながら、爽くんが私の持っているチケットを取り上げた時。 「おい」 後ろから不機嫌な声が聞こえた。 振り返ると、案の定そこにいたのは蓮だった。 久しぶりに会っても相変わらず威風堂々たる王子ぶりで、忙しいだろうに疲れた顔ひとつしていない。 スーツがよれてたり髪が乱れたりすることもなく、今日も満開のバラを背負っている。 私なんて疲労で化粧ノリまで悪くなっているというのに。解せない。 ここはずっと買うのを躊躇っていた超お高い美容ドリンクについに手を出すべきか……。 眉間にシワを寄せ、こちらを睨みながら足早にやって来た蓮は、爽くんが目の前でひらひらさせていたチケットを2本の長い指で取り上げた。 「あ! 莉子先輩にあげたのにー」 「お前は油断も隙もないな。勝手に莉子を物で釣るな」 怖い顔をして怒ってみせた蓮に、爽くんは肩を竦めながら笑うだけ。 そんな2人を隣で見ながら3日分の美容ドリンク代と効果の対比のそろばんを脳内で弾いていると、蓮の持っていた厚さ3センチはあろうかという分厚いファイルで頭をはたかれた。 「いった!!」 オーバーにリアクションをとったものの、大して重みのないファイルだったせいか、スパンと大きないい音はしたものの痛みはほぼない。 当然蓮もそれを折り込み済での所業だとは思うが、当然抗議はさせてもらう。 「ハードすぎツッコミ罪で逮捕します」 「じゃあお前は隙ありチョロすぎ罪で実刑だ」 「異議あり! 隙のなさコンテストで日本代表になれるほどチョロくないでお馴染みの莉子さんですよ。控訴します」 「あほか、予選落ちだわ。控訴を棄却します」 ぐぬぬ。切り返しの速さとキレが一段と増している。 ムッとして口を尖らせると、不機嫌だったのを若干のドヤ顔にしてこちらを見つめてくる蓮に、自然と笑顔がこぼれてきてしまう。 客観的に見ればバカみたいな会話の応酬だけど、恋人同士になってもこんなくだらないやり取りが出来る蓮のことが好きだなぁとしみじみ感じる。 恥ずかしいから口に出しては言わないけど。 「で? 蓮兄はなんでこのフロアに?」 私達のやりとりを華麗にスルーした爽くんが訊ねると、蓮が持っていたファイルを差し出した。 「お前が見たいって言ってた資料。二年くらい前のだから使えるかわかんないけど」 「サンキュー。わざわざ持ってきてくれなくてもデータで送ってくれればいいのに」 「まぁそれはついで、っていうか口実。こいつの顔見に来た」 さらりと言って私に小さく微笑む蓮に、胸がぎゅっとなる。 ただでさえ最近会えてないのに、突然こんな甘い攻撃は反則だ。 ダイエットで断食してたのに急にチョコレートパフェを与えられた気分。 確かにお腹はすいてるけど、お粥からお願いしますっていう。胃もたれどころか内臓がバグを起こすレベル。 チョコパフェ男め。 口には出せずに恥ずかしさに悶絶していると、爽くんが「バカップルにあてられて力が出ない……」と、餡が詰まった顔が濡れてしまった某ヒーローのようによたよたとベンチに倒れ込む。 彼は愛と勇気だけが友達の純粋無垢なヒーローだ。 色んな意味のオトモダチが多かった爽くんとは似ても似つかないなと思いながらも、この照れくささから逃れたいために全力で乗っかることにする。 「爽くん! 新しい顔よ!」 同じアニメのキャラクターの声真似をしながら、ポケットに入っていた飴を爽くんに向かって投げる。 「おー! 莉子先輩さすが、激似!!」 「ちょっと、そこは『元気100倍!』でしょ」 「あ、そっか。しまった」 「アンアーン……」 「あははは! 失望された。そこも出来ちゃうの!? 莉子先輩、やっぱ面白すぎる!」 「……何してんだ、お前ら」 呆れた蓮が苦笑し、甘い空気が霧散したところで、私はそそくさと休憩スペースから脱出した。
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