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かわうそやカピバラのもぐもぐタイムで大はしゃぎし、オオグソクムシにきもいと連呼し、ペンギンやイルカショーも見たところで休憩することにした。
水族館内のカフェに入り、寒さのせいで比較的空いているテラス席に出て席を取る。
隣接している遊園地のジェットコースターや観覧車が見えた。絶叫系も好きなので、いつかあっちにも行ってみたいな。
「結構歩いたな。飲み物買ってくる」
「一緒に行こうか?」
「いい、ココアだろ?」
「うん。あったかいやつ」
「了解。知らない人について行くなよ。あと落ちてるもんも拾って食うなよ。大人しく座っとけ」
「泳いでる魚も食べたりしないから早く行ってきて!」
私を子供どころかペットのような扱いをする蓮を小突いてやる。
笑いながら私の頭をくしゃっと撫でてから、注文カウンターに歩いて向かう後ろ姿を見送った。
何も言わないけど、たぶん私が新しいブーツではしゃぎすぎて足が疲れたことを察してくれたんだろう。
冬なのにわざわざテラス席にしてくれたのは、きっと遊園地が見える席のほうが私が喜ぶと思ったから。
エスパー水瀬は今日も絶好調らしい。
蓮は私の大好きなホットココアによく似ている。
心地良い優しさに包まれて、一緒にいると心がぽかぽかとあったかくなっていく。
うん。チョコパフェ男改め、ココア男子。関西のアイドルグループみたい。ひとりだけど。
そんなことを考えながらひとりほくそ笑んでいると、コツコツとヒールの音が私の目の前で止まった。
「あなたが蓮くんの今の彼女?」
突然声をかけられ、一瞬思考が止まる。
椅子に座ったまま視線を上げると、明るい茶色の髪を綺麗に巻き、冬だというのに惜しげもなく細い足を晒したミニワンピースに淡いラベンダーカラーのコートを羽織った可愛らしい女性がこちらを睨むように見下ろしていた。
「あの……?」
「私のことを捨てて選んだっていうから、どんな女なのかと思ったら。それとも、もうその彼女とは別れて別の人なの?」
吐き捨てるように言われたセリフで、ようやく今自分が蓮の元カノに遭遇してしまっているのだと理解した。
ちょっと可愛すぎない?
高校の頃からの付き合いだと聞いている。制服を着ていたこの人はさぞ美少女だっただろう。
蓮は面食いだったのか。……いや、私と付き合ってる時点で違うか。
今日の私は寒さ対策万全。白のパーカーにグレーのロングチュールスカートを合わせ、当然下にはタイツ着用。アウターは黒のショート丈のダウンジャケット。
首にはマフラーをぐるぐるに巻いて、肌見せの『は』の字もない。
そんな私を上から下までじろじろと見回して、潮風が吹いても関係ねぇとばかりにミニスカをはためかせる彼女が鼻で笑う。
決して面白くはないけど、確かに女子力では敵わなさそうなので口を噤んでおく。
「言っておくけど、蓮くんのルックスと肩書に釣られて付き合ってるとガッカリするから」
「……はい?」
急に話しかけられ鼻で笑われ、さらによくわからない話をしだしたこの女性を一体どうしたものか。
「高校の頃からずば抜けてかっこよかったし頭も良かったから告白して付き合ったけど、優越感に浸っていられたのは最初の三ヶ月くらいだった。こっちから連絡しないとデートにも誘ってくれないし、友達に紹介したいって言っても会ってくれないし」
「……はあ」
「私の就活がうまくいってないって知ってたのに、水瀬ハウスの御曹司だってことも隠してたの。発覚したあとも就活に協力してくれたりもしなかった。かなり長く付き合ってたのに冷たいと思わない?」
ペラペラと聞きたくもない話を聞かされる。
いつだったか蓮が言っていた『御曹司だと知って目の色変えた元カノ』はこの人なのだと確信した。
「良いのは見た目と水瀬ハウスの御曹司ってとこだけ。あなたもそのうち飽きて捨てられるよ。残念だったね、せっかく優良物件を捕まえたのに」
せっかくの可愛い顔を歪め、よくわからないマウントを取ってくる。
えっと、言いたいことは色々とあるけれど……。
「いくらハウスメーカーの御曹司だからって『優良物件』呼びはどうですかね。ちょっと安直じゃないかと」
「はぁ?」
「じゃあ肉の卸問屋の御曹司はシャトーブリアンって呼ぶのかと。航空会社の御曹司はエアバス?」
「意味がわからない」
……ツッコミスキルはないらしい。まぁ冗談は置いといて。
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