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碧の自宅の寝室は、リビングやダイニングと同じように綺麗で、広くて、お洒落だった。
壁は淡いグレーで塗られ、大きな窓にかかるカーテンはそれよりも濃い墨色。寝具も白やグレーといったモノトーンカラーで統一されているから、ポイントとして置かれたカラフルな絵やインテリアがいい意味で目を引く。
「……ほんとに、いいんですか」
すでにベッドに入り、背もたれのクッションに寄りかかっている碧に問う。
「いいよ。……て、このやり取り何回やらせんの?」
ベッドの横に立ち尽くすようにしている絽伊を見上げ、碧が呆れたように首を傾げた。
息を吸って吐いて、絽伊は三回目を続ける。
「……絶対、碧さんに触ったりしません。万が一にでも危険を感じたら、俺を殺してください」
「オッケー。容赦なくやるから安心しろ。いい加減寝るよ」
「おわっ」
碧に腕を引かれ、バランスを崩してベッドに膝をついた。
絽伊の体重が突然乗っても、高級ベッドは軋んだ音ひとつしない。クイーンサイズだというそれは、男二人でも身体が触れ合わずに眠れる十分な広さがあった。
絽伊の身体を強張らせていた緊張が、少し薄れる。
碧が、絽伊と一緒に眠るなんてやっぱり嫌だと、怖いと思わないか不安だった。
けれど彼はいつも通りで、――なんなら怯む絽伊を強引にベッドに転がしてくれたし――そのベッドも、ひたすらに心地が良かった。
マットは適度な柔らかさと安定感があり、シーツも羽毛布団も毛布も、しっとりと肌に馴染む触り心地。
「……天国じゃん……」
感嘆のため息と共に呟いて、高い天井を見上げた。
部屋は快適な温度と湿度に保たれている。スピーカーからは静かにピアノジャズが流れていて、甘くて爽やかなバニラとムスクが香る。
そして、寝心地のいいベッドの隣には、碧がいる。
小声でまた「……マジで天国」と呟くと、碧の笑う気配がした。
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