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「すいません」 「いいよ。大丈夫」  絽伊が謝ると、テープを貼ってくれたメイクスタッフは小さく笑った。  ──君はそれでいいよ。プロ意識とか、期待してないから大丈夫。  冷たい目がそう告げている。 「ロイ君オッケーです」  メイクと衣装のセットが終わり、スタイリストが声を上げた。     撮影スタジオに移動すると、アルテの撮影中だと思っていた部屋にカメラのシャター音はなかった。レフ板やライトに囲まれたスペースにも、その姿は見当たらない。 「ちょうどアルテのソロ撮り終わったから、絽伊君も挨拶行こう」  いつの間にか隣に立っていた吉岡に腕を取られ、部屋の端に連れられる。 「ちゃんと謝ってね。……それから、絶対口説くなよ」  念押しするよう囁かれて、絽伊は肩を竦めた。 「だから、男は興味ないって」 「その言葉忘れないように」  吉岡の視線の先を辿ると、小さめのカウンターがある一角に人が集まっている。その輪の中心に、メイク直し中のアルテであろう人の頭がチラリと覗いた。  アルテは自分専用のヘアメイクやスタイリストで構成された撮影チームを持っていて、海外の仕事にも同行させるという。アルテを囲んでいるのは、その専属スタッフ達だろう。  まさに従者を引き連れる王様だ。 「アルテさん、遅れてすいませんでした」  絽伊が声をかけると人の輪が崩れ、アルテの姿が現れる。 「今日一緒に撮影する、ロイ──」  顔を上げたアルテと目が合った瞬間、続くはずの言葉は途切れてしまった。  中途半端に開いた口もそのまま、意識の全てが彼に奪われる。  切長の目、スラリと高い鼻、薄く形のいい唇。精巧に造り上げられたそれらパーツが、小さな顔に絶妙なバランスで配置されている。睫毛の一本まで、角度を測ったみたいに完璧。  ──なにこれ。生きてんの?  馬鹿みたいな疑問が浮かんで、移動中に読んだ雑誌の一文を思い出した。  ──時代も国も越えた美しさは、まさに芸術とよぶに相応しい──  あの時は、大袈裟だろと鼻で笑ったけれど。  実際に修正も加工もされていないアルテを見た今、絽伊はもうそれを笑うことは出来ない。  まさに芸術。その通りだった。  アルテは、じっと絽伊を見つめている。ガラス玉のようにつやつやとした大きな瞳に、吸い込まれるように体が引き寄せられ、手が伸びた。
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