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薄く纏わり付くような眠りは、やっぱり深くならないまま朝になった。
起床時間より二時間ほど早かったけれど、絽伊は眠ることを諦めて、自宅マンションの寝室を出た。
リビングのカーテンを開けると、窓ガラスは雨粒で埋まっている。
梅雨が始まったという天気予報通り、最近は連日の雨だ。
あくびを漏らし、気怠い身体を伸ばした。
昨日の夜も、眠りは浅く短かった。
ベッドに入ってもなかなか寝付けず、やっと眠れたと思っても、夜中に何度も目が覚める。
永遠に夜が続くような苦痛に耐え、ただじっと遠い朝を待つ。一人で眠ると、大体いつもそんなふうになる。
数年前に、睡眠障害の一つである慢性不眠症と診断を受けた。
処方された薬はいまいち効果を感じられず、金が勿体無いので通院も薬も止めてしまった。
それでも比較的、誰かが一緒だと長く眠れることが多かった。自分以外の体温と気配を近くに感じられる夜は、心が落ち着く。
――いつも違う女の子をはべらせて、毎晩遊びまくっているヤリチン。
その噂話は、大きくは間違っていない。
女の子をはべらせているつもりはないし、毎晩も言い過ぎだけれど。
馴染みの遊び場へ行けば、音楽とアルコールと人が時間を埋めてくれるし、ベッドまでついて来てくれる子にも困らない。
セックスは、健全な成人男性として嫌いではないけれど、特別に好きというわけでもなかった。一緒に眠ろうとすると、自然とそういう流れになるから、する。
疲れている時なんかは正直めんどくさいなと思うこともあるが、瞼裏の闇を睨み続ける夜に比べたら全然マシだ。
シャワーを浴びて、適当に服を選んだ。
今日は、話があるからと事務所に来るように言われている。社長も同席するらしい。
いよいよだなと思う。
いよいよ、正式にクビを言い渡されるんだろう。社長がわざわざ出向いてくる理由は分からないが、解雇する際、代表がしなければならない手続きか何かがあるのかもしれない。
アルテとの撮影から、一ヶ月余りが過ぎていた。
撮影自体は、絽伊の遅刻を除けば順調に進み、カメラマンやディレクターはたいそう満足気だったけれど。
事務所の看板モデルに、面と向かって「すげぇ嫌い」と言われた。絽伊の素行の悪さに、とどめの一撃だ。
――また当分、家なしか。
重い体と心を引きずり部屋を出た。
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