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キリコさんは、よく人に道を聞かれる。
歩いていると必ず誰かに呼び止められ、
「駅はどこですか」
などと尋ねられるのだ。
歩いている時だけじゃない、ジョギングしている時も、自転車に乗っている時でさえ、道ゆく人に呼び止められて道を聞かれるのだ。「〇〇はどこですか」と。
キリコさんは分かる時は丁寧に道順を伝え、分からない時は正直に「分かりません」と言った。すると、誰もが満足そうに「ありがとう」とキリコさんにほほえみかけた。
「ありがとう」。そうほほえむ顔を見ると、キリコさんの胸は、温かくなった。だからできるだけ、道を聞かれたら丁寧に伝えるようにしている。
また、キリコさんが行列に並んでいると、必ずと言っていいほどキリコさんの前に道が生まれる。まるで創世記の名シーンのように、なぜか前の人とキリコさんの間の間隔だけが少し空きすぎていて、
「すみません、前通らせてください」
そう言いながら、次々と人が横切っていくのである。老いも若きも。男も女も。ベビーカーも車いすも。いつの間にかキリコさんの目の前が、行列のあちら側からこちら側へと移るための架け橋のような道に変わってしまう。
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