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意識が遠のく同時に、私はふわふわとしたピンク色のモヤの中に落下していた。
「ぎゃっふ!?」
空から突き落とされたような感覚。何やら、薄ピンクの綿菓子のようなところにお尻から落ちてしまったらしい。ふわふわしているとはいえ、落ちた高さが高かったからなのか、じんじんとお尻が痛んだ。まったく、貧弱な女子大生になんたる仕打ちか。
「ここ、どっこ……?夢?」
夢の中、であるような気はするがあまり確信は持てない。お尻をさすりながら私は歩きだした。綿菓子のような地面には、辛うじて黄色い道が引かれている。どうやらそれを辿って歩け、といいうことらしい。
黄色い煉瓦の道、なんて。まるでオズの魔法使いのヒロインにでもなった気分だ。残念ながら自分には、一緒に旅をしてくれる愉快な仲間はいないのだが。
「おわっ」
少しばかり歩くと、町に到着した。高い壁に囲まれた町であり、奥には薄ピンク色の大きなお城も見える。このお城というのが、いわゆる“子供がお姫様の住んでいる西洋のお城をイメージして絵を描いたらこんなかんじだろう”みたいな、結構雑なデザインなのだ。円い円柱の煉瓦の建物に、ドピンクの円錐の屋根がのっかっていて、その上にワンコのマークがついた旗が立っている。
とりあえず思った。ここの人達は、よほどピンクが好きなんだろうか、さすがに目に痛いぞ――と。
「そこのお前、人間だな」
「!?」
私に声をかけてきたのは門番だった。だが人間ではない。
なんと大きなドーベルマンが、近衛兵みたいな制服と帽子を被っておすわりしていたのだ。私は思う。可愛い、超可愛い、なでなでしたい――と。その可愛さに比べたら、犬が喋るくらいどうってことないはずだ、うん。
「王様がお呼びだ、城まで案内する」
「王様?え、ここ、マジでワンコの王国なの!?」
「その通りだ、王様はゆえあって犬が好きな人間を王国に招いてるのだ」
「マジ!?それは最高ですありがとうございます。あと」
ドーベルマンは多分、オスなのだろう。バリトンボイスが渋くてなかなかかっこいい。
「王様に謁見する前に貴方のこともモフらせてください!十五分くらい!!」
「……」
振り返ったドーベルマンが、露骨にドンびいていたのは言うまでもない。
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