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王様は、真っ白な大きな犬の姿をしていた。
ガチ犬好きの私にはわかる。あれはグレートピレニーズだ。耳が垂れているからきっとそうに違いない。そして渋い声から察するに、人間でいうところのダンディなおじさまなのだろう。
「よくぞ来た人間。心より歓迎しよう」
「ありがとうございます王様めっちゃかわいいですモフらせてくださいお願いします」
「流れるように言ったなオイ!わし、王様なんだが?偉いんだが?」
「そうですね!王様になれるなんてすごいと思いますというわけで敬愛のモフモフを一つお願いいたしますどうかなにとぞ土下座もしますので!」
「うわあ……」
いやだって、こんな天国に連れてこられて興奮しないでいられるだろうか。
グレートピレニーズの両脇を固める宰相っぽいのは多分シベリアンハスキー。ずらっと並んだ兵士たちは黒いラブラドールレトリーバー。せわしなく動き回っているのが、ティーカッププードルからスタンダートプードルまでの大小さまざまなプードルたち(ちなみに白も茶も灰色もこげ茶黒もいる)。
メイド服を着たダルメシアンもいるし、執事っぽいゴールデンレトリーバーもいる。なんだここは楽園か、楽園なのか。しかも私好みの大型犬がほとんどではないか。
「私このまま死んでもいい……むしろこの楽園で殺して……はうあ」
「なんかすごいこと言ってる。犬好きの人間ってみんなこうなのか?こうなのか?」
王様がなんかものすごく誤解してるっぽいことを言っているが、ひとまずスルーしよう。というか、このままだとまったく話が進まない。主に私のせいで。
「失礼しました。あんまりにも皆さまが最高に可愛いもふもふだったせいで我を忘れてしまいました。えっと、とりあえず呼ばれてきたわけですが、私に何か御用がおありでしょうか?」
まあ、おまじないをしたのは自分だが。この流れからすると、人間界におまじないをはやらせたのはこの犬たちだということなのだろう。ワンコの王様ともなれば、異世界から人間世界に多少なりん影響を齎すこともできるのかもしれない。凄い話だ。
「ああ、うん。……えっとその、人間よ。そなたに相談があるのだ」
わんこの王様のグレートピレニーズは、若干顔をひきつらせたまま言ったのだった。
「昨今、人間たちの世界では猫人気が高まっていると聞く。犬を飼っている者より、猫を飼っている者の方が増えているということではないか。我々は危機感を覚えているのだ。どうすれば、犬人気を取り戻すことができる?我々の国は、人間が犬を好きだという気持ちに大きく支えられて成り立っている。犬好きが減ってしまうと、我々の王国も存続の危機になってしまうのだ」
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