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場所は変わって魔界。
何も伝えられないまま、急に天界から魔界へ連れてこられたスラムの民達は、居心地が悪そうにざわめいていた。
__カツ、コツ、カツ、コツ
靴底が地面を踏み鳴らす音が響き、群衆は音の方へと視線を向ける。
群衆のいる場所より少し高い瓦礫の上に、真っ黒の装束に身を包んだハイドラとエニグマが立った。
ヤツらは誰だ。
何故私たちはここに。
どうなっているんだ。
各々がヒソヒソと思いを口走る中、ハイドラは軽く息を吸い込み、よく通る声を放った。
「欠けた天使諸君、魔界へようこそ!
我々は君たちを歓迎する!」
自信満々に笑うハイドラを横目で見て、エニグマは満足そうに笑っていた。
一ヶ月でまるで別人のように変貌したハイドラ。
初対面の時の猫背でオドオドとした様子は一切なく、今は胸を張って邪悪な笑みを浮かべて演説を始めようとしている。
吹っ切れたハイドラを見ながら、エニグマはこの一ヶ月の濃密な会話を思い出していた。
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「エニグマ、信じてもらえないかもしれないけど、ぼくも君と同じ境遇だったんだよ。」
「はぁ?カミサマが虐げられるって、んなわけ…」
「あるんだなぁ、コレが」
ハイドラは自嘲気味に笑いながら、自らの過去を淡々と話した。
エニグマは複雑そうな顔をしながら話を聞き、全て聞き終わった頃にはもう初対面と思えない程の親近感を抱いていた。
「なんだそりゃ、結局神も天使もろくなもんじゃねえじゃねェか」
「そうさ。だから、エニグマ。君の夢をぼくが叶えてあげる。ぼくも同じ気持ちになったんだ。」
「夢って、お前……創世神を殺すなんて、禁忌どころの話じゃねェだろ……」
大それた夢。
天使のみならず、ハイドラを除く七大神と創世神までも鏖なんて……
エニグマにとってはそこまでの規模で考えてはおらず、ただ自分に危害を加えた憎い天使を 片っ端から殺せればそれだけでよかったのだ。
だがハイドラはそれ以上を望んだ。
自分に酷い役割を与えた父を、それを理由に虐げてきた兄妹も、危害を加えてきた天使も、静観していた天使も。
天界全てを滅ぼそうなどと持ちかけてきたのだ。
「そりゃ今のぼくたちにとっては大それた夢かもしれない。
でも、もっと力をつければ……無理な話じゃない。
現に、天使や神は闇を恐れている。
ぼくがいれば、ぼくが強くなれば負けるはずがない。そうでしょ?」
なんの根拠も無いのに、自信満々に目を輝かせるハイドラ。
まるで幼児が遊びの提案をしているかのような、その延長線上のような口振りで大言壮語を吐くハイドラを見ていると、何故か本当に出来るような気がして。
「……いいぜ、ノッた。俺らで天界をぶち壊そう」
ハイドラの手を取り、ニヤリと笑った。
「でもお前は体と能力を鍛える前に、その口調どうにかしないとな。
そんなモヤシ丸出しの喋り方じゃ全然強そうに見えねーっつの」
「えぇ、そうなの…?ぼく、どうすれば…」
「手始めにその“ぼく”を辞めてみろよ。俺様とか我輩とか、なんか強そうなヤツにしろ」
「俺様……我輩……うぅしっくりこないけど、頑張る!」
そこから一ヶ月、二人はまるでボードゲームに勤しんでいるかのような調子で戦争を仕掛けるための作戦を練り続けたのだった。
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